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#25 君と (一生) ロマンスをしよう
「やだ、もうこんな時間」
遅くまで仕事をしていたせい?朝から片付けに追われていたせい?それとも、メイクに時間をかけすぎたせい?
……なんて、いまはそんなことどうだっていい。とにかく急がなきゃ、巧が到着するまでに空港に着けない。
買ったばかりのスプリングコートに、チャコールのポインテッドトゥパンプス。昨夜念入りにパックしたから肌の調子は上々だし、ネイルだって新しくしたばかり。唇にすっと馴染むローズピンクのリップは、光が当たるたびに小さなラメがちらつく。
うん、悪くない。姿見の前で最終チェックをして、小さなショルダーバッグを手に玄関へ向かう。
会った瞬間に、「可愛い」ってびっくりしてほしい。だって、大好きな旦那さんが帰ってくるんだもの。ひとりだと持て余していたこの部屋も、やっと主が揃ってしっくりくるはず。
行ってきます、と玄関のドアを静かに閉めた。次に帰ってくるときは、ふたりだからね。
*
土曜日の混み合う到着ロビーで、彼の姿を見つけるなり駆け寄った。黒いコート姿の巧が、「麻紀」と嬉しそうに顔を綻ばせる。
「巧、おかえり」
人目も憚らずぎゅっと抱きつくと、ウッディとタバコの匂い。ほんとに巧だ、と実感すると涙が滲んでくる。
「ただいま。迎えに来てくれてありがとうな」
「……うん」
「ほら、麻紀の可愛い顔、もっとちゃんと見せてくれ」
うん、と見上げるとキスが降ってきた。わたしを見つめる二重瞼がきゅっと細まって、「可愛い」ともう一度。
「続きは帰ってからにしようか。早く俺たちの家に帰りたい」
彼の言葉に頷いて、大きな手を握り返す。2年前、涙を必死に堪えていたあの日のわたしたちに教えてあげたい。いまもこれからも、ちゃんと一緒にいるよ、って。
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