#25 君と (一生) ロマンスをしよう

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「新居はどうだ?」 「すごくいいよ。でも、つまんない」 「つまんない?」 「ベッドもリビングも、ひとりだと広すぎるの。バスルームだってキッチンだってそう」  巧がいないとつまんない。薄手のコートに包まれた腕にぎゅっと巻きつくと、「たった1週間だろう?俺の奥さんは甘えん坊で寂しがり屋だな」と肩を抱き寄せられる。  まだ春と呼ぶには早いような気温だけど、来週からもう4月。お互いに新しい場所で、新しい仕事が始まる。  わたしは正式に市役所への出向が決まり、巧には本庁の企画政策部への異動内示が出た。  彼の言っていたとおり、新しい出勤場所は管内の市役所になった。札幌から電車で30分ほどかかるものの、十分に通える距離だ。  そういう事情もあり、新居は札幌駅近くのマンションの7階──築浅の1LDKで、南向きの大きなバルコニーが気に入っている──に決めた。1ヶ月ほど前に契約を済ませ、1週間前からわたしがひとりで住んでいる状態だ。 「巧の荷物もだいたい届いたよ。この土日は荷解きと片付けで終わりそうだね」 「引継ぎ関係は終わったのか?」 「なんとか終わらせたの。せっかく巧が帰ってきたのに、家を空けるなんて嫌だから」 「今日はやたら素直だな。それに」  いつも可愛いけど、今日は特に可愛い。駅からマンションまでの帰り道、人通りも車通りも多い真昼間なのに──額や頬にキスが落ちてくる。 「……可愛い?」 「ああ。荷解きと片付けの前に、おまえを」 「それ以上言わないで、ほんとにそうなりそうだから」  そんなことしてる場合じゃないの。リビング、段ボールだらけなんだから。ぴしゃりと言って鼻先に人差し指を突きつけると、「そんなことってあんまりだな」と彼が目尻を下げる。 「まあいい。さっさと終わらせて、夜はなにか食べに行こう」 「帰ってきたら?」 「一緒に風呂入って、一緒に酒飲んで、一緒にベッドに入る」 「……それだけ?」 「で、終わると思うか?」 「思わない」  同時に黙ってから顔を見合わせて、同じタイミングで吹き出す。気付けばマンションを通り過ぎそうになっていて、慌てて足を止めた。
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