【番外編1】新婚さん密着24時

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【番外編1】新婚さん密着24時

──Side 巧  今日は珍しく市外で会議だ。ちょうどいいので、自家用車で行って直帰することにした。 目的はただひとつ。そのまちの市役所で働いている、可愛い奥さんを迎えに行きたいから。  管内とはいえ市外だから、近くまで行くことはなかなかない。  業務のうえで市役所と直接的に関わることは少ないが、いい機会だから顔を売っておこう──というのは建前で、麻紀の職場を一度見てみたかったのと、「俺の妻に手を出すな」と彼女の周りに釘を刺したいのが本音だ。  なにしろ、俺の奥さんは美人で仕事もできるからな。いくら既婚とはいえ変な輩が湧かないとも限らない。 「いつもお世話になっています。本庁の桐島です」  まず始めに顔を出したのは企画課──麻紀が配属されている部署だ。幸いと言うべきか、彼女は席を外している。  今朝、「そっちで会議があるから職場に迎えに行くよ」と提案したら、麻紀は露骨に嫌そうな顔をした。「恥ずかしいからやめて」と首を縦に振らないので、車で待っていると言って渋々了承してもらったのだ。 「これは桐島係長、お世話になっています。先月の会議でお会いしましたよね。今日はどうされました?」  対応してくれたのは、電話などで何度かやり取りしたことのある係長職の男性──麻紀の直属の上司だ。そういえば、顔を合わせたのは先月が初めてだったな。 「近くまで来たのでご挨拶に。あと、妻がお世話になっているのでそのお礼も兼ねて」 「妻?」 「4月からこちらに出向になっている桐島は私の妻でして」 「え?あ、桐島さんのことですか?……で、旦那さんが、桐島係長?」  係長の声に、他の職員も集まってきた。「どうしたんすか、大きな声出して」「こちら、本庁の桐島係長。何度か相談に乗っていただいただろう」「はい。その節は大変お世話になりました」「うちの桐島さんの旦那さんなんだって」「え、マジですか?!」──思ったより驚かれているな。まあ、それはそうか。
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