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「桐島さんの旦那さま、すごく素敵ですね。あまりにもお似合いで、うっとりしちゃいました」
係長に報告を終えて席についた途端、隣の古賀さんがわたしの方に向き直った。
「そうかな。もういい歳のおっさんだよ」
「桐島さんの6歳上でしたよね?全然見えないです。もっとお若く見えます」
「それを言うなら古賀さんの旦那さんだって。わたしより上でしょ?」
「うちは……付き合い始めたときから、なぜか見た目が変わらないんですよね。笑った顔なんて特に」
彼女に旦那さんの話を振るといつもこんな反応だ。恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかんで笑う。
──こんな奥さんなら、心配すぎて残業のたびに迎えに来ちゃうわけだよね。
彼女のふっくらとしたお腹に目を遣る。初期の段階から知っていたのでなるべく控えさせてはいるものの、どうしても1時間程度の残業が発生する日がある。そんな日は決まって、駐車場に黒いSUV車が停まっているのだ。
──さっき、ちょっと冷たかったかな。せっかく迎えに来てくれたのに。
いつものようにスリーピーススーツを着こなし、いかにも「できる男」の雰囲気を漂わせた巧の姿を思い出す。自分の夫ながら見惚れちゃうくらいかっこいいし、本当は、あの広い背中にぎゅっと抱きつきたかった。
でも、必死に仕事しているところを見られるのが恥ずかしいんだもの。だから車で待っていてって言ったのに。
「桐島さん、ちょっと確認したいことがあるんだけど」
「はい」
定時まであと30分。今日中に会議の結果をまとめておきたいから、少し待たせてしまうかもしれない。
冷たい態度を取ったことを謝らなくちゃ。それに、「迎えに来てくれてありがとう」ってお礼も言いたい。
ちゃんと言えたら、あの甘い眼差しで見つめてくれるかな。……今日は金曜日だから、夜はゆっくりできるだろう、し。
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