【番外編1】新婚さん密着24時

5/22
前へ
/416ページ
次へ
「思ったより早かったな。もっとかかるかと思った」  午後6時過ぎ、駐車場の隅に停まったレヴォーグの助手席に乗り込む。カーフレグランスとは違う彼の匂いが鼻をついて、ほっとするのと同時に胸が高鳴った。 「うん。待たせてごめんね」 「いいんだ。俺が勝手に来たんだし」  どこか寄りたいところはないか?その問いに黙って首を振り、シフトレバーに置かれた左手をぎゅっと握る。 「……その、さっき、ごめん。迎えに来てくれて、ありがと」  俯いたまま小声で言ったのに、この距離だからしっかりと聞こえたみたいだ。一瞬の間のあと、彼の手がわたしの髪をさらさらと掬う。 「どういたしまして」  甘く優しい声で囁かれ、額に唇を押し当てられた。「ちょっと、ここ、わたしの職場」「もう暗いから見えないだろう」「そういう問題じゃ……」──顎を持ち上げられ、一瞬のキス。 「今日は、残りものでなにか作るな」  そして、鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌で車を発進させる。どうして機嫌がいいのかはよくわからない。 * 「俺が飯作ってる間に風呂入っていいぞ、って言いたいところだけど……」 「わかってる。お湯だけ溜めておくから」  ジャケットを脱ぎ、薄手のニット姿になると背後から抱きしめられた。今日もお疲れさま。耳が熱くなったのを隠すように「巧こそお疲れさま」と素っ気なく返す。 「スーツ姿、いいな。麻紀はスタイルがいいからパンツスーツがよく似合う」 「そう、かな」 「ああ。だから、いますぐに」 「絶対だめ」  まったく、油断も隙もないおっさんだ。  巻きついている腕を振り解き、冷蔵庫からビールを2本取り出した。「これ飲みながら一緒にご飯作ろうよ。そういうの(・・・・・)は、あとでのほうがいいでしょ」──わたしの言葉に、彼が驚いたような表情を浮かべる。 「そうだな。あとでゆっくり」  同時にプルタブを開け、勢いよく缶をぶつけ合った。外に飲みに行くのもいいけれど、ふたりでいるときは「家飲み」が一番楽しい。好きなように飲めるし、部屋着でいいし──なにより、いつでも触れ合えるから。
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22767人が本棚に入れています
本棚に追加