プロローグ

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プロローグ

 日曜日の朝10時、人々は映画館に集まる。彼らは建物の中に入ると、ポップコーンやドリンクではなく、フィルムを買おうと列を成す。ポップコーンやドリンクを買う者もいるにはいるが、ほんの数人程度だ。フィルムは1切れ1セントで売られており、ほとんどの者が束で買っていく。  フィルムは黒と白の2種類が売れているが、白はおまけ程度に数枚買う人が時々いるだけで、ほとんどの客が黒いフィルムばかり買っていった。  フィルムを買った人々はシアタールームに入ると、思い思いの席に座る。席はあっという間に埋まり、最後列(さいこうれつ)で立って並んでいる人もいる。  館内はブザーが鳴るのと同時に暗くなり、舞台の中央がスポットライトで照らされた。そこにいるのは、シルクハットやワイシャツまで真っ黒な、燕尾服姿の男。長身で細身のその男の肌と、くせっ毛の髪は白く、瞳はルビーのように赤く輝いている。男は美しく、どこか歪な笑みを浮かべて観客達を見回すと、恭しく一礼してみせた。  彼はこの断罪シアターの支配人、マネット。表向きはすべての罪を(ほふ)るため、こうして断罪シアターの支配人をしていることになっているが、真実は誰にも分からない。 「本日も断罪シアターにお集まり頂き、ありがとうございます。本日皆様方にご覧に入れますのは、嘘をつき続けた男の物語です」  そう言ってマネットが再び恭しく一礼すると、スポットライトと共に姿を消した。スクリーンが、レンガ造りの建物が並ぶこの街を映し出す。  卑しい顔をした中肉中背の中年男性は老婆の家に入ると、言葉巧みに彼女を騙し、金を奪っていった。男は他の家でも同じように金を騙し取り、自宅の地下金庫にしまうと、騙された人々を笑いながらワインを飲み干した……。  場内が明るくなると、舞台の中央にはマネットと、先程の短い映画に出てきた中年男性が立っている。にっこりと歪な笑みを浮かべるマネットの隣で、詐欺師の男は顔面蒼白で小刻みに震えている。手は後ろ手に縛られ、足には足枷がつけられ、逃げられそうにない。 「では皆様。この男に罰を与えるのなら黒のフィルムを、罰は必要ないのなら白いフィルムを入れてください」  そう言ってマネットは、かぶっていたシルクハットを投げた。シルクハットは宙を舞い、手前の観客の前へ行く。観客がフィルムを入れると隣へ行き、前の列の観客が全員入れ終わると、後ろの列へと浮遊した。  観客の中には1巻のフィルムを入れる者もいる。1巻のフィルムはギリギリシルクハットに入る大きさだが、不思議なことにいくつ入れられてもフィルムが溢れかえることはない。  すべての観客がフィルムを入れ終えると、シルクハットはマネットの元に帰ってきた。
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