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愛さなかった罪
日曜日の朝10時、人々は断罪シアターに足を運んだ。今日も売れるのは黒いフィルムばかり。奇特な客達は、ポップコーンやドリンクなんかも買っていく。
席が満員になるとブザーと共に場内が暗くなり、黒い燕尾服姿のマネットがスポットライトに照らされ、恭しく一礼する。
「本日もお越しいただき、ありがとうございます。今回は小さな命を皆様に救っていただきたいと思います」
スポットライトと共にマネットは消え、スクリーンには小さくてボロボロの家が映し出される。
髭を生やしっぱなしにした男が酒をラッパ飲みすると、勢いよく酒瓶をテーブルに叩きつける。彼の名前はボブ。生真面目だったボブだが、仕事を失い、妻に逃げられ、人が変わってしまった。
「おい、ヘンリー! 酒を買ってこい!」
「ダメだよ、父さん……。もうお金がないし、身体に……」
10歳くらいの少年が眉尻を下げながら言うと、ボブは少年の頬を平手打ちした。かなり強く叩かれたらしく、少年はそのまま床に倒れてしまった。
「お前はいつからそんなに生意気な口をきくようになった!? 誰のおかげで暮らしてけると思ってるんだよ!」
赤くなった頬を押さえてすすり泣くヘンリーの胸ぐらを掴むと、ボブは酒瓶でヘンリーの頭に振り下ろした。ヘンリーが悲鳴を上げて頭を押さえて泣き喚くと、ボブは愛息子を抱きしめた。
「ごめんよ、ヘンリー……。父さんは悪魔に取り憑かれてるんだ。悪魔を大人しくさせるには、酒が必要なんだ。分かってくれるよな? ヘンリー」
「はい、父さん……」
ヘンリーは涙を拭うと、明日のパンを買うはずだったお金で酒を買いに行った。
短い映画が終わると、舞台上ではマネットと拘束されたボブがスポットライトに照らされた。
「うぅ……酒を、酒を飲ませてくれ!」
これから処刑されるというのに酒を求めるボブを見て、観客達は失笑する。
「では皆様、この男を裁くか否か、決めてください」
マネットは高らかに言いながらシルクハットを投げた。観客達は次々に黒いフィルムを入れていく。
マネットに陶酔している者は、シルクハットにキスをしてから黒フィルムを一巻入れる。
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