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すべての観客がフィルムを入れ終えると、シルクハットはマネットの元に戻り、中から1本になった黒フィルムが出てきて、ボブを包み込み、真っ黒な球体になった。
「では、裁きの時間です」
マネットが指を鳴らすと、球体は転がって舞台から姿を消した。マネットもスポットライトと共に消え、スクリーンに処刑場が映し出される。
処刑場はボブが幼い頃に暮らしていた家を模したもので、家具や小物の配置も当時と同じだ。黒いフィルムから解放されたボブは、縄も足枷もなくなっていた。だが……。
「なんだよ、これぇ!?」
景色の低さに驚いて自分の手を見ると、メープルのように小さくなっている。
野太かった声は高めのアルトに変わり、180cm以上あった巨体は、120cm近くにまで縮んでいた。服も、当時していたボロ雑巾のように薄汚い服に変わっている。
勢い良くテーブルに酒瓶を叩きつける音がして顔を上げると、黒い仮面をつけた紳士がいた。
「そこの君、明日の食費でお酒を買ってきてくれませんか?」
そう言って黒仮面の紳士は、ボブにお金を握らせた。安酒が2本、もしくは3人分の食糧が買える金額だ。
「なんで俺がお前なんかのために買いにいかなきゃならないんだ!」
ボブが黒仮面の紳士を睨みつけながら言うと、後ろから鈍器で頭を殴られた。
「いってぇ……」
涙目になりながら振り返ると、白い仮面をつけた紳士が、部屋いっぱいにいるではないか。しかも彼らは、それぞれの手に酒瓶を持っている。どの酒瓶も、ボブが飲んだことがあるものばかりだ。
「ひぃ……!」
得体の知れない紳士達に恐怖を覚え、甲高い声が口から漏れる。ボブが後退りをすると、唯一酒瓶を持っていない紳士が彼の前でしゃがみ、ボブを抱きしめた。
「ごめんよ、ボブ。父さんはお前のことを愛している。けど、悪い悪魔が父さんに取り付いて、こんなひどいことをさせるんだ。お酒を飲めば悪魔は大人しくなるから、買ってきてくれ」
その声は、かつて自分に暴力を振るっていた父の声だった。
「な、なんで……いぎっ!」
ボブを抱きしめていた紳士が離れると、右から鈍器で殴られた。そちらを見ると、酒瓶を持っていない紳士がいて、ボブを抱きしめる。
「ごめんよ、ボブ。父さんの中にいる悪魔が悪さをしたんだ。愛しているから、お酒を買ってきておくれ」
その紳士の声もまた、父の声をしていた。
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