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今度は左から殴られる。やはり酒瓶を持っていない紳士が、ボブを抱きしめる。
「父さんはボブを愛してる。こんなことをしたくないけど、悪魔が悪さをするんだ」
優しい父の声が、ボブの脳をと心を揺さぶる。
「やめろ! そんな、お前達は……!」
自分を抱きしめていた白仮面の紳士を押して後ずさると、彼らは次々に仮面を外していき、誰もが父と同じ顔をしている。
「いやだ……こんなのいやだぁ!」
「ボブ!」
ボブが家から出ようとすると、野太い父の声で責めるように呼ばれ、反射神経で固まってしまう。恐る恐る振り返ると、黒仮面の紳士がこちらを向いている。黒仮面の紳士がゆっくり仮面を外すと父と同じ顔をしており、責め立てるような目でボブを見下ろした。
「お前はお使いも満足にできないのか!」
「ごめんなさい、父さん……」
ボブがうなだれると、また酒瓶で殴られた。
「愛してるんだ、ボブ」
「悪魔が父さんにひどいことをさせるんだ」
「許してくれ、ボブ」
「酒を買ってこい」
「酒を買ってきたら、父さんと遊ぼう」
白仮面の紳士だった父親達は、ボブを酒瓶で殴っては、彼を抱きしめた。頭は歪に変形し、片目は瞼が腫れ上がってしまったせいでほとんど開かない。両足の骨は折れて、立つことすらできない。死んだほうがマシだと思えるほどの痛みで、気が狂いそうだ。
いっそのこと、死んでしまうか気が狂うかしてしまった方が、どれほど楽になれるだろうとすら思う。この痛みとたくさんの父から解放されるのなら、死んでもいいと。
「死ねるわけないでしょう? これは罰なんですもの」
鈴のような声に顔を上げると、父の暴力と心労で亡くなった母が、黒仮面の紳士が座っていた椅子に座り、ボブを見下ろしている。
「母さん! た、助けて……。父さんがたくさんいて、僕を殴るんだ……」
「あら、おかしなことを言う子ね」
母の言葉に、ボブは肩を落とす。きっと父親がたくさんいたなんて話は、信じられないのだろう。
「あなたはもう、私の子じゃないのよ」
「え……?」
ボブは思い出してしまった。母は心労で死んだんじゃない。ボブを置いて逃げたのだ。父親に言われて酒を買いに行く途中、見知らぬ優男と一緒に、赤子を抱いて楽しそうに歩く母を見てしまった。
母が他の男といたのはショックだったが、それでも母を見つけられた嬉しさが勝り、話しかけると、知らない子だと言われた。それは幼いボブにとって耐え難いもので、母は死んだと自分に言い聞かせながら生きてきた。
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