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「ひ、ひどいよ、母さん……。どうして僕を連れて行ってくれなかったの?」
「近寄らないでちょうだい。薄汚い」
ボブが這って手を伸ばすと、母は汚物を見る目で彼を見下ろし、蹴り飛ばした。
「うぐぅ……」
痛みと悲しみで、目を強く閉じる。どれだけ拒絶されても、母への想いが消えることはなく、どうにか戻ってきてもらおうと目を開ける。
「なんだ、ここは……」
真っ暗な空間が広がっているばかりで、父も母もいない。不自由な身体で見回しても、やはり何もない。
不安になって震えていると、足に固くて冷たいものがまとわりついた。驚いて足元を見ると、太い鎖がボブの右足を捕らえていた。
「な、なんだよ……なんなんだよ!」
恐怖のあまり叫ぶと、鎖はボブを凄まじい速さで引っ張った。
「ひぃいいぃっ!!!」
摩擦で服がめくれ、皮膚が擦れて熱くなる。もう、摩擦で傷になっているかもしれない。
ずっと真っ暗だった空間だが、鎖が引っ張る先に、巨大な口が見えた。子供のボブを、造作もなくひと口で平らげそうなほど大きな口が。
サメのように鋭利な歯が上下にずらりと並び、赤い舌がボブを待ちわびるように波うっている。
「ひっ! 嫌だ! パパ、ママ、助けてぇ!!! ママー!!!」
母を呼びながら、ボブは口の中に引きずり込まれてしまった。ボブが柔らかな舌の上に乗ると、口は閉じて、大きな音を立てながらボブを飲み込んだ。
処刑の上映が終わると、観客達は盛大な拍手を送り、マネットとヘンリーがスポットライトと共に現れると、拍手が止んだ。
「上映前にも言いましたが、小さな命を救っていただきたいと思います。ヘンリーを家族として迎え入れてくださる方はいらっしゃいませんか?」
マネットの言葉に、観客達は顔を見合わせる。この中には子供を望んでいる者もいたが、欲しいのは自分達の子であって、養子ではない。勢いで引き取っても、慣れない子育てにイラついてヘンリーに手を上げたら、今度は自分が処刑されてしまう。そう考えると、子供が欲しいと思っていても、中々手を挙げられない。
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