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翌日になっても裕貴は中学生のままだった。卒業式を終えたので正確には中学生ではないのだが……。
「沙弥さんは麻弥さんを助けてって言っていたな。けど、何をどうすればいいんだ?」
裕貴が麻弥の死を知ったのはテレビのニュースで、だ。恐らく殺人事件だということ以外に何の情報もない。それどころか麻弥との接点も卒業と同時に失った。犯人を探す以前の問題だ。
ここが過去の世界ならこのままではまた麻弥が死んでしまう。過去へ戻って……生きている麻弥を見て分かったが、彼女が生きているだけで裕貴は幸せな気持ちでいられる。死なせたくない、もう2度と。
何か手を打たなくてはと焦りが滲んできた。そこへ一本の電話がかかってくる。知らない番号だ。
「もしもし?」
「もしもし……天川沙弥です。早く状況を説明した方が良いかと思って友達に番号を聞きました。突然こんなことになって驚いている?」
「いきなり過去に戻されて驚かない人はいないと思うんだが……。それにしても本当にタイムスリップするとは」
「タイムスリップなんてしてないよ。高校生になった下澤くんの記憶を中学生の下澤くんに移植したの」
沙弥は魔法による記憶への干渉は大したことないと言っていた。実際その通りだ。沙弥が魔法を発動したという記憶があるから、どうにか受け入れられている。けど、もし、その記憶が無ければ、変な夢を見た程度にしか思わない。湯をそそいだカップラーメンが完成するより早く忘れていただろう。
「これが私の魔法。麻弥を助ける唯一無二の手段」
にわかには信じ難いが記憶だけが時間を越えて過去へ戻った。もう魔法の存在を認め、新しい世界で前に進んでいくしかない。
ここから目指す、麻弥が死なない未来へーーーー。
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