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橋の袂まできた。洋館の方を見てみるが、走り去った人影はいなくなっている。
「下澤くん、コッチ!」
沙弥が柵の隙間に体を滑り込ませた。裕貴も追いかけるが狭い。女性や子供、裕貴のように細みの人間が通るのがやっとの隙間だ。
沙弥は草をかき分け階段をおり川の淵ヘ降りる。鬱蒼と雑草が生い茂っており、小さなジャングルのようになっているが、先導する沙弥の足取りに迷いは全くなかった。
川の流れを追いかけてコンクリート舗装の上を走る。先行していた沙弥が徐々に速度を緩めた。
「やっぱりスーツケースだ……」
沙弥の言葉は穏やかな流れの水面を見てのことだ。スーツケースがゆったりと流れていく。観覧船のようにゆったりと流れに身を任せている。
それを見た裕貴は川へ飛び込んだ。
「危ないよ! 戻って!」
水を掻く音に、沙弥の声が混ざっている。前に進むに連れ沙弥の声は水の音に飲まれ聞こえなくった。
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