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6月24日(天川沙弥2)
「何で……何でなんだよ! 麻弥さん、返事してくれよ!」
裕貴の声が夜空に轟く。沙弥は「道理で重いわけだ……」っと場にそぐわないことを考えていた。華奢な麻弥でも40キロはある。沙弥1人で持ち上がらないわけだ。
「救急車! 沙弥さん、早く救急車を呼んでくれ!」
悲痛に満ちたその声で、ようやく思考が追いついた。
「麻弥……」
過去の世界で麻弥の亡骸を何度も見てきた。胸くそ悪いことに見慣れてしまっている自分がいる。裕貴のように泣いて嘆くことが出来ない、自分が許せない。
「下澤くん。ごめん」
さっさと過去へ戻っておくべきだった。
「もう、手遅れ……」
「何で、そんな簡単に……」
裕貴がそのあとに言いたかったのはおそらく「諦められるのか」だろう。沙弥は爪が食い込むくらい握っていた拳を開いて、裕貴の前に差し出した。
「そうだよ。下澤くんに手伝ってもらう前にも何度も見てきた。でも、諦めないからここにいる。今も、これからも諦めない」
諦める機会は今までに何度も何度もあった。沙弥はそれを「ふざけるな」と蹴りとばして、この場所にいる。
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