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『もしもし?』
電話に出た麻弥は明らかに不機嫌だ。裕貴のために美味しい料理を作ると意気込んでいたから、早く帰って下ごしらえをしたいのだろう。
自分の教室に戻ってきた沙弥は窓から麻弥の姿を探した。麻弥らしき人物は見えない。
『用がないなら切るよ』
「待って待って! いくら何でもセッカチ過ぎ! 良い? よおく聞いて」
クラスメートに聞かれないように沙弥は起こったこと全てを話した。全部話すまで麻弥は黙って聞きつづる。
「ーーーーだから、今日は家に直行しず、人の多いところで時間を潰してて」
そこまで話しを終えたところで麻弥から大きなため息を頂いた。
『バカ!』
ついでに、大声での罵倒もだ。今の一撃で耳の奥がキンキンするのでスマホを反対の耳に当てた。
『また私の予知を狂わせて!』
「悪かったって!」
『下澤くんには、“急用ができた”ってキャンセルしてもらう』
「うん。でさ、未来予知で犯人、見ることできる? 警察には通報するつもりだけど、捕まらなかったときのためにね」
『ちょっと待って! ここだと人目につくから。終わったら電話する』
沙弥は電話を切った。そのままスマホで時間を確認する。前回麻弥は家で襲われた。あまり早く警察に通報しても犯人がいない可能性もある。警察に電話するのは本来麻弥が家に着いていた時間を狙って、だ。
クラスメートたちが順番に帰って行く。比例するように教室に静かな時間が増える。
麻弥から電話があったのは野球部の生徒が「遅刻する」っと叫びながら出ていったときだ。
「もしもし。どうだった?」
『……変わってた。沙弥の言った通りだった』
「誰だった……?」
『…………大和田俊之』
「なんで大和田くんが?」
突然、通話が切れた。折り返すが麻弥は電源を落としてしまったらしい。「現在この電話は〜」と繰り返されるだけになってしまった。
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