6月24日(天川麻弥3)

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6月24日(天川麻弥3)

 沙弥との電話を切った麻弥は自販機の影から出た。髪を激しく揺らし急ぐが、家に着くのは元々予定していた時間より後になる。  電車に駆け込むと空いている席に座わり、額の汗をハンカチで拭き取った。電源を落としたままのスマホを取り出す。黒い液晶に映るのは、自身の顔。   「どっちみちこんな状態じゃ、下澤くんには会えないや」  今日のために色々と頑張ってきたので、キャンセルになったのは非常に残念だ。でも裕貴との約束は大事だが、もっと大切なものもある。 ーー沙弥の安全のためだもん。仕方無いよ。  未来予知の中には沙弥への想いを口に出しながら天川家に向かう大和田の姿があった。それに待ち伏せする姿も見えた。  大和田の本当の狙いは沙弥。朝の事件のとき、沙弥に助けてもらったことで歪な愛を抱いたのが事件の発端だ。  このことを沙弥に伝えるべきか迷った。でも言えば沙弥は自身を責めるかもしれない。大和田を助けない過去に戻るかもしれない。そうすれば平和な日常にーーーー裕貴に手料理を振る舞う未来が訪れる。  でも、その代わりに沙弥がクラスメートのために頑張ったという過去は消えてしまう。 「ダメ……だよ、そんなのは……」  麻弥はスマホを鞄の中にしまうと、強く拳を握った。電車が到着し、駅に降りた麻弥は決意を固め、家に急ぐ。  
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