11人が本棚に入れています
本棚に追加
警察が来たことで安堵する一方、緊張が高まる。大和田がどう動くか予知の範囲外になった。心臓の鼓動が早まる。カウンターから出て玄関へ向かうには大和田の潜んでいるソファーの横を通らなくてはならない。
改めて未来予知をするべきか? しかし、未来予知をするには集中しなくてはならない。より多くの可能性を見ようとするなら比例して時間も長くなる。
もし、集中しているときに襲われたら? そう考えると未来予知をするのを躊躇してしまう。
とは言え、麻弥はコレを頼りに生きてきた。絶対的な道標をこの重大局面で使わないという選択をするというのも…………。
麻弥が選んだ行動は、未来予知だ。ほんの一瞬だけーー大和田がどう動くのかを見るためだけに留めた。
その結果、麻弥はスリッパを脱ぎカウンターを飛び出した。フローリングの床が滑る。裕貴が来るからとワックスを念入りにしたのが仇になった。
麻弥が走り出したのと同時にソファーから大和田が飛び出した。
「沙弥! 迎えにきた! 一緒に行こう!」
警察が来たことで大和田の顔には焦りが浮かんでいる。それと、驚きも混ざっていた。家の中だ。せいぜい小走りで来客を迎えに行くだろうが、麻弥は疾走している。
意表を突かれた大和田が手を伸ばすがもう遅い。スピードの乗った麻弥には指先すら届かない。
大和田の横を走り抜けた麻弥は、壁際のテレビの前まで大きく迂回して、距離を保ちつつリビングを出た。
廊下の先の玄関を開ける。勢いに驚いた警官と目があった。
「たす……けて下さい! 男の人に襲われて……」
怯えが滲んだ麻弥の表情、それに助けを求める言葉に、切迫した事態と判断した2人の警官は顔を見合わせると頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!