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警官の1人は丸い銀縁のメガネをしている。彼は腰の警棒をいつでも抜けるように手を添え、リビングの中へ入っていった。
その後ろでもう一人の背の低い警官が麻弥を座らせる。
「もう大丈夫ですからね。ゆっくり深く呼吸して下さい」
安心した途端、麻弥は力が抜け立っていられなくなった。息苦しく、何より全身が震えて止まらない。深呼吸を繰り返し、震える指先でリビングを指す。
「あ、あそこに……リビングに」
守ってもらうだけじゃ足りない。大和田を逮捕してもらわなくては体を張った意味がない。
「ご安心下さい。犯人も絶対に逮捕致しますから」
力強く警官が応える。麻弥は悪を許さないという意志をこの警官から感じた。彼の顔を見たとき、ようやく終わったのだと悟る。
ここから先は警察の仕事。大和田を逮捕してもらい万事解決だ。麻弥は壁に体を預けリビングの方を見る。間もなく手錠を嵌められた大和田がくるはずだったーーーー。
しかし、麻弥の視界の片隅で何かが倒れた。
「えっ?」
背の低い警官だ。白目をむき、口から泡を吹いて気絶している。そして麻弥を不気味な陰が覆う。
単純な話だ。大和田が庭を通り背後に回っただけのこと。けれど、驚くべきは大和田の巨体に似つかわしくない気配の殺し方だ。イジメっ子から逃げるうちに身につけたのだろう。
「とんだ邪魔が入ったね。けど安心して。僕たちの仲は誰にも裂けないから」
大和田の手にはスタンガンと手錠がある。銀縁眼鏡の手錠だ。正面からやって大和田が警官に勝てるはずがない。さっきみたいに背後から不意をついたのだろう。
「やだ……こないで……」
麻弥は廊下を逃げる。もう鍵のかかる浴室に立てこもるしかなかったが、脚が思うように言うことを聞かない。硬く冷たい床を手と膝で進む。
「怯えなくていいよ。僕は沙弥を愛しているんだ」
仔ウサギを狩るように大和田は楽しんでいる。存分に麻弥を逃げ惑わせ、浴室の扉に手をかけた瞬間、その手を掴む。
「ほーら、捕まえたぁ!」
陽気に笑う大和田に麻弥は床に押し倒された。大和田が背中に乗ると麻弥は呻き声を上げる。大和田の体重は高校生男子の平均を軽々と上回っており、麻弥が手足をバタつかせたところで意味はない。
「お願い、やめて」
大和田は麻弥の手を掴むと背中で手錠を嵌めた。
「そうだね。続きは家に帰ってからやろうか?」
大和田がスタンガンを取り出した。麻弥の上で電気のバチバチと弾ける音が鳴り始める。警官相手には最大出力だったのを、麻弥相手には出力を抑えて使う。それでも全身の痺れや気絶くらいはするかもしれない。
麻弥の体が強力な電気で痙攣を起こした。一瞬で鋭い針が全身を駆け巡ったような痛み。声も出せないうちに体は麻痺した。かろうじて繋ぎ止めた意識の端で大和田が笑う。
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