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麻弥のスマホは電源が切られていて通じない。裕貴は沙弥に電話をする。
「もしもし?」
『もしもし、下澤くん? どうかした?』
沙弥の声の後ろから車の音が聞こえている。それに息が上がっており、何やら急いでいるようだ。
「さっき、麻弥さんから電話で約束をキャンセルにって言われた」
『そう。ごめんね。せっかくの麻弥の手料理なのに』
「それはちょっと残念だけどそれよりさ……なんか麻弥さんの様子が変だったように思えて」
電話の向こうから聞こえてきたのは驚いたような沙弥の声だった。
『下澤くんも思った? 私も思って理由を聞こうと思ったけど、電話が通じなくて』
裕貴の手の中に微かな温もりが蘇ってくる。スーツケースの中の麻弥の遺体は完全に体温が消えてはいなかった。まるで命の篝火が消え残された薪のようで、心が抉らたように痛んだ。
「麻弥さん。家に帰ってないよな?」
『全部伝えた上で人が多い場所で待つようには言ったけど』
「僕、見に行ってみる!」
『待って! 私も行く! 駅で落ち会おう』
沙弥も麻弥との連絡がつかないのが気がかりで、帰宅を急いでいるようだ。裕貴も沙弥と合流するべく急いだ。
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