6月24日(下澤裕貴3)

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 裕貴が駅に着くと既に沙弥がいた。入り口付近で不安気な表情で電話をかけている。唇が動かないとこを見ると電話は繋がっていないようだ。 「遅くなってごめん。麻弥さん?」 「うん。でもダメ、電源は切られたままで……」 「急ごう」  天川家へ急ぐ。分かりやすい大通りだけじゃなく、沙弥の先導で入り組んだ住宅街の路地も通る。  裕貴の前では沙弥が髪とセーラー服を揺らしている。  家に着けば汗だくでパトカーを見てホッとため息をつく。それで沙弥は連絡の取れた麻弥に喚き散らす。  裕貴が願うのはそんな何気ない日常の一コマ。 「下澤くん。前!」  沙弥に言われて住宅街の先に目を向けた。黒と白のボディに赤いランプをのせた車が停まっている。 「良かった。思い過ごしだったみたいだ」  沙弥も同意見のようで速度を緩めて裕貴の前から隣に移動した。電話が通じなかったのも充電切れとか映画館にいるとか……後から聞けば大したこと理由じゃなく、様子が変に思えたのはほんの少し前にスーツケースに詰められた麻弥の遺体を見たから。だから、過敏になっていただけ。 「ごめんねー。勘違いでこんなところまで来てもらって……」 「僕も気になってたし、何事も無かったってこの目で確かめられたし、良かったよ」 「今度とびっきり美味しい料理を麻弥に作らせるから」  パトカーの中は無人で近くに警官の姿は見当たらない。逃走した犯人を追いかけているような慌ただしさもなく住宅街は閑静なままだ。  警察の姿を探していた裕貴の腕を沙弥が掴み引き止めた。 「待って、玄関の扉が……。それに見て」  パトカーの陰から門の中を覗く。玄関の扉が開いたまま。警察や犯人が鍵を持っているはずがないので、沙弥以外の天川家の人間が開けたことになる。それに警察官が倒れていた。
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