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6月24日(天川沙弥3)
沙弥は麻弥の体を起こした。拘束されているが目立った外傷はなさそう。目を固く閉ざしているのも変な薬を飲まされたとか、意識を奪われているからという訳ではなく自分の意思で見ないようにしているだけみたいだ。
麻弥の無事を確認できた。
沙弥は張り詰めていた糸が切れて脱力した。裕貴には無事だということを笑顔で頷いて伝える。
怖くなっていた裕貴の顔も安堵に塗り替えられていく。そして、裕貴は麻弥の体を抱きしめた。目尻から涙が伝っている。腕に残った亡骸の冷たさを塗り替えるように強く、とても温かく裕貴は麻弥を抱きしめている。
「良かった……」
沙弥は脱力した声帯に活を入れ言葉を絞り出した。
麻弥がまだ目を開けようとしないのは大和田に捕まったままだと思い込んだままだからだろう。でも、実際に麻弥を抱きしめているのは麻弥が愛している人間。
大和田じゃなく裕貴だと分かった瞬間、麻弥はどんな反応をするだろうかと考えると沙弥は楽しくなってきた。
名前を何度か呼ぶと麻弥が目を開いた。
「色々と言いたいことはあるけど、兎にも角にも無事で良かった」
何故警告に従わず家に帰ったのかは後で問い詰めなくてはいけない。でも、今は麻弥が無事なことを喜びたい。
麻弥が何かを言いたそうだが言葉になっていない。もしかしたらスタンガンで体が麻痺しているのかも。沙弥は安心してボロボロと涙を零す麻弥の頬を拭った。
麻弥が泣いていると警察のサイレンが聞こえてくる。沙弥は麻弥の頭を軽く叩くと立ち上がった。
「警察来たみたいだからちょっと見てくるよ」
麻弥の目が「後ろにいるのは誰?」と訪ねてくる。沙弥はワザと麻弥の視線は無視して裕貴に声をかけた。
「下澤くん。麻弥のことそのまま抱きしめていてあげて。怖くて1人になるのが不安みたいだから」
涙をグッと堪えた裕貴が力強く「分かった」と答えた。
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