6月24日(天川沙弥3)

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 家の外に出るとパトカーが集まって来ていた。全部で3台。道路の奥には更に2台。その後ろには救急車も来ている。  制服警官が続々と降りてきた。悪い事はしていないが警官の放つオーラに少し萎縮してしまう。 「事件があったと通報を受けてきたのですが……この家の方ですか?」  身内がやられたという報告を受けているせいか警官の顔が怖い。彼らに逮捕されたあと大和田が無事でいられるかどうか……。 「そうです。姉が被害者で今、友人の男性が付き添っています。犯人は床で倒れている男です」  警官が続々と家の中に雪崩れ込んでいく。2人はまだ家の中で抱き合っているのだろうか? それにしても、裕貴があんなことをしたのは意外だった。自分の感情にも気が付かず普段から奥手だったのに……。  いや、それだけ麻弥への愛情が深いということの証明。そして、それは麻弥も同じだ。沙弥は担架に乗せられて運ばれている麻弥を見た。  恋の病で緊急搬送されているんじゃないかと疑いたくなるような惚気きった顔。 「ご家族の方も一緒に来て下さい」と救急隊員から指示を受ける。裕貴も関係者ということでパトカーに案内されている。  閑静だった住宅街も一気に騒がしくなっている。警官や救急隊員が走り周り野次馬が興味本位で見物に訪れていて、マスコミも集まってきていた。  長かった“6月24日”はようやくエピローグを迎えている。数時間後には日付が変わり“今日”は記憶になる。きっと明日は繰り返すことなく記憶へ変わる。明後日もそうだ。明々後日もそのあとも、ずっとそうだーーそうであって欲しい。けれど、沙弥はそれが叶わないと経験から悟っている。  スーツケースに詰められた麻弥の遺体の首にあった圧迫痕。裕貴に助力を乞う前に見てきた麻弥の遺体は全て刃物による傷があった。それに事件が起きたのは9月になってから。  “だからきっともう一波乱ある”  沙弥と麻弥を乗せた救急車が病院へ走り出した。    
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