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「どうだった?」
麻弥が魔法を使い終えたあたりを見計らい沙弥が聞く。
「んーー。今の時点では悪い人じゃない……けど、未来では悪人になる」
「そんな人がなんで家に?」
「すぐに分かるよ。とにかく帰ろう」
沙弥が頷く。家に近づくと予知に倣い車の扉が開いて男が出てくる。陰気な中年。沙弥は男の顔を見て首を捻った。
「この人、どっかで見たよーな……」
「入学式で見かけたとか、じゃない? だってこの人……」
男が近いてきて麻弥たちを呼び止める。喉が潰れているみたいな低く涸れた声。陰気そうな男は会釈をした。
「大和田定信です。大和田俊之の父親の……」
立派なお腹の俊之とは真逆で病人のように痩せこけた定信。一見すると全然似ていないが親子だと言われればそう見えてくる。
「ああ! 思い出した!」
ただ、沙弥はその名前を聞いて思い出した。入学式で見たのではなく、4月に佳子と歩いていたとき洋館の前でテレビのインタビューを受けていた男だ。
「たしかホラー専門のアーティスト」
「ホラー? アーティスト?」
「映画とかお化け屋敷とかで使う人形とかを作ってる……」
麻弥が沙弥の説明を受けて納得すると定信が補足する。
「お化け屋敷や映画で使うのは私の作品が評価された結果で、本業はオカルトを題材にしたアーティストです」
麻弥と沙弥はその違いがイマイチピンと来ず「はあ……」と気の抜けた返事をする。
「それで、その用件は?」
正直に打ち明ければ未来予知で訪ねてきた理由も分かっている。ハッキリ言ってしまえば来ないでくれる方が良かったのだが……。
「そうでした。本日は謝罪に伺いました。私の監督不行き届きで愚息が大変なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」
「いえ、そんな……」
定信が直角に腰を折り曲げて誠心誠意謝罪してきた。子供の不始末のためにこんな年下の小娘に頭を下げないといけないとは親の責務も大変だ。
「これも全てアイツの母親のせいなんです。お恥ずかしい話、他の男と遊ぶばかりで息子には全く愛情を注がず最後には男と出て行ってしまって……」
男にだらしない母を見ていたから、大和田俊之は女に不信感を抱いた。偏愛を抱くようになった。
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