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この理由はマスコミで散々流されていた。どこから調べたのかその調査能力は恐るべきものだ。
「そうですか。もう済んだことなので、お引取り下さい」
サクッと話しを済ませた麻弥は沙弥の背中を家の方に押した。
「ちょっと! いいの? そんな適当にあしらって」
「いいの!」
麻弥は門を閉める。定信はまだ頭を深々と下げたままだった。麻弥は沙弥の背中を玄関まで急ぎ足で押して、急ぎ家の中に入ると施錠をする。
耳を澄ませ車のエンジン音が去って行くのを確認すると沙弥の肩を掴んだ。
靴を脱いでいた沙弥の体を自分の方に向けさせる。
「麻弥?」
沙弥は険しい顔で荒っぽい行動をしたことを不穏に感じた。
「いい? 沙弥。今の人に絶対に近づいたらダメだよ!」
冗談を言っている目じゃない。麻弥の目の奥は威嚇にも近い攻撃的な警戒心が見て取れる。
「そんなに警戒するなんて……。あの人、将来どんな犯罪をするの?」
「……殺人」
重く苦しそうに麻弥は言葉を発した。
「蛙の子は蛙、か……」
定信の息子の俊之は麻弥を殺した。その事実は世界から無くなったが、沙弥と裕貴の中だけには残っている。
「その被害者が私?」
沙弥が聞くと麻弥は「違うよ」と言いながら首を横に振る。
「ザッと見た未来の中での被害者はみんなバラバラだった。けど、共通点もあって殺されるのは今年の9月。年齢は私たちと同じくらいの人だった」
麻弥は身を震わせた。予知した未来での残酷な殺害現場を思い出したのだ。
「それと、もう1つ。みんな刃物で殺される……。全身の血が全部抜けたんじゃないかってくらい、いっぱいの血を流して……」
「……ヒドい……」
沙弥は血が抜かれた被害者の姿を麻弥に重ね合わせた。大和田俊之の事件は別として、その前に見た麻弥の遺体と状況が合致している。
9月のXデーに行方不明となり数日後に刃物で殺害された遺体として発見される。この結末を変えるために沙弥は何度もやり直してきていた。
「気をつけるのは私だけじゃないでしょ?」
沙弥は麻弥の腕を掴み返した。視界の中央に驚いた麻弥の顔を据え置く。
「特に前科者の麻弥は、ね」
「被害者なのに、犯罪者っぽく言わないでよー」
2人でクスクスと笑い合った。和やかになった空気のままセーラー服を着替えるために自室へ移動する。
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