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7月16日(下澤裕貴)
夏休みが目前に迫って来ている。人生で2度目の高校1年生の夏休み。前回の夏休みの思い出と言えば小山海祭で浩一のたこ焼き屋台巡りに付き合ったくらい。全ての屋台を巡り終えたときはちょっと感慨深かった。
けれど、やり直しの夏休みは違ったものになる。
“生まれて初めての彼女をつくる”
これは予言や予告ではなく宣誓だ。
その決意を胸に裕貴はインターホンを鳴らした。ここは天川姉妹の家。大和田俊之の事件があり料理を作ってもらうという約束は破談になったが今日はその埋め合わせの日。麻弥の手料理を食べれることを楽しみにしていた。
『いらっしゃい下澤くん』
インターホンから沙弥の声が流れる。普段と同じ明るい声だが、どこか疲れた感じもある。
『ちょっと待ってね。麻弥が今になって駄々をこねているから』
沙弥の声とは別に『無理だよー! お願い許してぇ』と泣く声が聞こえている。
「もしかして来たらダメだった?」
食事の誘いはただの社交辞令だったのかもしれない。途端に背筋が寒くなり、冷や汗が流れる。
『そんなことないよ。寧ろ楽しみにしてたよ……特に麻弥はね。ただ今日のために新しい服を買ったに麻弥が着たがらなくて」
「わざわざ、服を!」
嬉し過ぎることを聞いてしまった。手料理を振る舞ってもらえるだけでなく新しい服まで買ってくれていたなんて。
『ほら! 麻弥。下澤くんが暑い待ってくれてるんだから!』
インターホンを繋いだまま沙弥は麻弥を急かす。
『で、でもこの服は……』
『着てくれるって約束したよね?』
『分かってる。分かってるよぉ』
『ごめんね、下澤くん。やっと着替え始めたから……』
「渋ってたみたいだけど、どんな服を?」
『それを私が言ったら面白くないでしょ? とびっきり可愛くなった麻弥を見て楽しんで』
沙弥の押し殺した笑い声を最後にインターホンが切れた。
真夏の夕日に負けないくらい裕貴の目が輝く。好きな女の仔が、それとも容姿端麗の子が可愛い服を着るのだ。 期待に胸が膨らむのは当たり前だ。
ソワソワと待っていると扉の鍵が
外れる音がした。
「お、お、おまたせ、しましたっ!」
正真正銘麻弥の声。いつもより高く、口調も少し早い。物凄くテンパっているのが分かる。
「開けていいのかな?」
「はい! 心の準備もできてます」
裕貴は扉を開いた。芳香剤の香りが涼しい風に乗って流れてくる。そして出迎えてくれた麻弥は石像のようにカチコチに固まっていて、顔は熟れたトマトよりも赤い。
「お、お、お、おかえ、りなさいませ。…………ご、主人さま」
メイドさんだ。麻弥がメイド服を着ている。アイドルのようにカワイイ麻弥とメイド服の相性は抜群。裕貴は反射的にシャッターをきった。
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