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シャッターをきった瞬間、麻弥は耐えきれず下を向いた。両手で顔を隠すが髪の隙間から見える耳が紅くなっている。
「うーー……ヤッパリ撮ったぁ……」
「ごめん、つい……」
“ヤッパリ”という妙な言い回しから察するに、このことは予知済み。それでも抵抗しなかったのを踏まえると、撮影をしても良いという事だ。裕貴は都合の良い解釈をしてポケットにスマホを押し込んだ。
「それで、その……なんでメイド服? もしかして、趣味とか?」
「ち、違いますっ! これはその沙弥との約束です」
恥ずかしさで頭が一杯の麻弥は説明の要領を得ない。ザッと説明を要約すると、この前の事件で沙弥のフリをした結果、沙弥を怒らせてしまい許してもらう条件が今日メイド服を着ることらしい。
自分のために新しい服を買ってくれてたと勘違いしていた自分が恥ずかしい。そんな感情はおくびにも出さないで話しを続ける。
「じゃあもう許してもらえたんだ?」
麻弥の姿をちゃんと見た。コスプレ用のメイド服はフリルが多くあしらわれ、スカートも短めに作られている。正に女性の可愛さを引き立てることだけを追求したデザインだ。
「なんとか、ね」
麻弥の引き攣った笑顔から苦労が滲み出ている。
「ところで、その変じゃないかな? こういう服を着るの始めてだったし、鏡で見る時間も無かったから確認できなかったし」
麻弥はスカートの裾を親指と人差し指で摘んだ。そのまま前や後ろを確認する。予知はしてるだろうが未来はいくつもあるので、ちゃんと裕貴から聞いておきたいのだろう。
裕貴が答える前にリビングの扉が音をたてて開いた。そこから沙弥が不機嫌そうな顔を出す。
「ちょっとーーー! いつまで玄関でくっちゃべってるのよ! 早くコッチに連れて来なさい!」
沙弥の怒った声が麻弥を飛び越えて裕貴まで届く。2人は同時に肩を竦めた。すぐに麻弥が「すぐに行くから」と叫び返す。
「そうだよね。こんなところで立ち話させてごめんね。さっ、あがって下さい」
裕貴はお土産に買ってきたケーキを麻弥に渡すとお言葉に甘えて家に上がらせてもらった。
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