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8月1日(下澤裕貴)
学生は夏休み真っ只中だ。部活に精を出す者、バイトに勤しむ者、青春を謳歌する者とそれぞれが夏休みを有意義に過ごしている。それは下澤裕貴も例外ではない。
下澤裕貴が訪れていたのはオープン初日を迎えた龍宮城。プレオープンの時も中々の人の多さだったが今日はそれ以上だ。
一緒に来ていた浩一も人の多さにゲンナリしている様子。それでもたこ焼きを食べたいと行列に並んでいる。
この行列の先にある屋台はプレオープンのとき麻弥がバイトをしていた店だ。ただ麻弥のバイトはプレオープンのときだけらしく、今日は20歳くらいの男性が接客を担当している。
炎天下の中、並んで購入したたこ焼きを食べようと飲食可能な広場へ来た。時間は正午前ではあるが、混雑を避けるために早めの昼食にしようとした人たちでごった返している。強い日差しから逃げるように陰に身を潜めてたこ焼きを食べ始める。
「今更だけど、何でたこ焼き?」
夏の太陽がチリチリと肌を焼くなか何故アツアツのたこ焼きを食べているのか、裕貴は疑問を抱いた。
「そりゃたこ焼きが最高の食べものだからだろ?」
裕貴の疑問に浩一はさも当然のように答えた。
「そう言う意味じゃなくて……まあ別に良いんだが」
たこ焼きが美味いのは認めるが暑い中、熱いものを食べるのは違うような気がする。ただ、それを浩一に言ってもたこ焼き好きの彼には理解されないだろう。せめて飲み物くらいは冷たいものが良いと買った炭酸飲料を啜っていると一際人が集まっている場所がある。どうやらテレビ局の人間が来ているらしい。
「テレビの撮影まで来てるんだ!」
「だろうな。龍宮城はこのあたりじゃ最大級の商業施設だ。それが3年がかりでやっと完成したんだ。報道関係者ならほっとかないだろ」
今日オープンした龍宮城はジャーナリスト達にとって甘い果実なのかもしれない。
「じゃ、将来ジャーナリストを目指す浩一君はどうかね? 取材してみたいかね? 龍宮城」
おちょくるような態度で裕貴は尋ねるが、浩一は気分を害した素振りはしない。代わりに少し悩んだ姿を見せた。
「そうだなー。個人的にはもっと皆をアッと驚かせられる内容の方が良いかな」
「龍宮城のオープン日は随分前から告知されてたから新鮮味は薄いかもな」
そんな話しをしているうちにたこ焼きは胃の中に消えていた。口の中に残ったソースを炭酸飲料で洗い流す。
「このあと、どうする?」
浩一は別の方向をボンヤリと見ていて、裕貴の言葉は届いていなかった。
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