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裕貴は浩一の視線を追いかける。浩一が見ていたのはテレビクルーの一行だ。クルーを囲っていた野次馬が離れ女性レポーターがよく見える。
「…………水端明里」
以前テレビに出演していたのを見たことがある。特に麻弥の死を報道した人間だったのを思い出してからは、その名前と顔が深く脳に刻まれた。
水端明里はカメラのレンズに爽やかな笑顔を向けて、女性の2人組にインタビューをしている。手に持っているジェラートについて聞いているらしい。たこ焼きよりもこの季節にピッタリのスイーツだ。視聴者的もたこ焼きよりジェラートの方が興味を唆られるだろう。
「そろそろ……!」
そろそろ移動しようと浩一に呼びかけようとしたが、彼の熱を帯びた瞳を見て言葉を飲み込んだ。
似たような瞳は覚えがある。たとえば裕貴なら麻弥を見る時とかーー。
まさか浩一がテレビレポーターに惚れるとは……。驚きの1言に尽きるが水端明里は知的な美人という印象だ。ガチ恋する人間もいるのも不思議じゃない。
明里は女性へのインタビューを終えたようだ。2人と別れたあとくるりと周囲を見回すと裕貴達の方へ足を向ける。
カツカツっとハイヒールを鳴らし、足早に明里が近づいてくると浩一の表情は硬くなっていく。
緊張した浩一の前で明里が止まる。明里は番組名の書かれたマイクを浩一の口に向ける。
「すみません。お話しいいですか?」
明里は浩一の目を見て話しかけた。目に見えて浩一の頬が紅くなるが、裕貴は首を傾げる。
“水端裕貴と水端明里。見比べると似ている”
そう感じたとき思い出したのはゴールデンウィークのキャンプで恋バナをしたときのこと。このキャンプでの話したことは沙弥が魔法で時間を戻したことで消えてしまったが裕貴の記憶の中には残っている。
姉がいると言っていた。そして姉のような人間が好きだとも…………。
「たこ焼きを食べていらしたんですか?」
「はい。たこ焼きが好きで……友達にも付き合ってもらって」
コチラを見た浩一と目が合う。裕貴は浩一と明里の関係に気を取られていたため、急いで笑顔を作り頷くので精一杯だった。
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