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龍宮城は大きく分けるとショッピングを楽しむエリア、食事を楽しむエリア、アミューズメントに特化したエリアに分かれている。
そのアミューズメント施設にはカラオケやボーリング、映画館はもちろんのこと屋内プールやスケートリンク、釣り堀にアスレチック遊具まで揃っていて、丸一日あっても遊びきれないほど充実している。
裕貴達が明里に先導されてきたのはイベント用の建物。演劇やライブ、スポーツ大会といった催しを期間ごとに開催して集客率をあげるために建てられた多目的ホール。構造は体育館をドーム型にしたシンプルなものになっている。そこで今、開催されているイベントがお化け屋敷だ。
何故お化け屋敷なのかと理由を考えれば『夏』だからというのが真っ先に思い浮かぶ。けれど、実際にはもう1つ理由があった。
施設には行列が出来ていて、近くには山羊の頭をした悪魔の人形が看板を持っている。お化け屋敷のタイトルは『悪魔の贄』。コンセプトは召喚された悪魔と悪魔退治にきたエクソシストの戦い。
「おーい、裕貴! 並ぶぞ」
悪魔の人形を食い入るように睨んでいた裕貴は浩一に呼ばれて列の最後尾につく。すると明里がマイクを向けてきた。
「2人ともどうですか? 相当コワイと噂になっていますが……」
さっきの質問の内容は一緒にお化け屋敷に入って欲しいというものだった。どうして一般人を同行させるのかと疑問に思うがテレビクルーの話しを盗み聞きした限りでは、当初お化け屋敷の取材は予定していなかった。しかし、明里はどうしてもこのお化け屋敷を取材したかったらしく、直前までディレクターに申し入れをしていたらしい。その熱意と本来取材を予定していた店が想定以上に混雑していたこともありお化け屋敷の取材に変更になった。そこで急遽出された企画が一般人の生の反応を撮ることで“本当に怖いとお茶の間に伝える”というもの。
「俺、お化けとか全然信じていないんで。平気ッス」
浩一が得意気に答える。
「僕もまぁ……幽霊は信じて無いので」
裕貴も素直に答えた。すると明里は挑発するような顔つきになる。しかし、口元や目元には微笑みが残っているため、不快な気持ちにはならない。日頃からテレビに映っていることを意識しているからできる絶妙な表情だ。
「そんな強気でいられるのも今のうちですよ! 何せこのお化け屋敷の製作には地元が生んだ世界的アーティスト……大和田定信が関わっていますから!」
お化け屋敷がチョイスされたもう1つの理由がこれだ。ここは世界でも活躍するアーティスト、大和田定信の地元でもある。完成したての龍宮城とコラボさせて、一気に地域活性化を諮りたい。地方議員の魂胆が透けて見えた。
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