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地方議員の思惑はさておき、大和田がこのお化け屋敷の製作に関与しているというのは事実で、この男が麻弥を殺害する可能性の最も高い人物と沙弥から聞かされている。
そんな男が作ったお化け屋敷だ。他の人には立派に見えているかもしれないが、裕貴には悪趣味に思えて仕方がない。
“殺人犯の作ったお化け屋敷”
ほんっとに悪趣だ。
「おーい裕貴! 順番きたぞ!」
裕貴は浩一のあとに続きお化け屋敷に入る。その後ろにはテレビクルーが続くが、大型の機材は置いていくため、ハンディカメラを持ったADだけが裕貴達と一緒に入った。
先頭の浩一はスタッフからランタンを受け取る。中に入っているのは本物の火じゃなくて小さなオレンジ色の電球。
豆電球のように小さな光が白い扉を照らした。この扉がお化け屋敷としてスタート地点のようだ。
浩一は明里に扉を開ける役割を譲るべく脇に移動した。役割を任された明里は片手でドアノブを掴むと、もう片方の手で持っているハンディカメラで裕貴達を映す。
「大和田定信さんが手掛けた最恐お化け屋敷。じゃぁ行きますよ? 準備は良いですか?」
裕貴たちに確認するように言ったがどちらかと言えばVTRを見る人……視聴者に向けて言ったニュアンスが強い。
明里が扉を開く。石造りを模した壁に赤い絨毯の敷かれた廊下。昔の貴族の屋敷を思わせる。
「意外と雰囲気あるな」
浩一はランタンを掲げて廊下の奥をザッと見た。闇の中にボンヤリと浮びクスクスと笑う男の声が漏れてきている。
その扉へ歩いて行く途中、裕貴は気がついた。
「この廊下……微妙に登り坂になっている気がしないか?」
浩一と明里がハッとした顔をする。
「言われてみれば……確かに。少しだけ傾いているな!」
勾配としてはほんの少し角度がついているだけ。されど扉に着くころには膝くらいの高さの高低差はついているかもしれない。
明里は「中から不気味な男性の笑い声が聞こえてきます」っと実況をしたあと扉を開いた。
「………っ!」
目に飛び込んできたのはローブを頭からすっぽり被った男。顔の大半は隠れているが青い唇がコチラを見て不気味に嗤っている。
「ちょっとビビった……」
「……驚いた」
裕貴と浩一はお互いの顔を見てビクッとなった体をほぐす。油断していた。お化け屋敷なんて不気味な人形が
置いてあるだけのものだと思っていたが、まさか生身の人間が佇んでいるとは……。
ローブを被った男は体の向きを変えるとローブの裾を引きずりながら歩き出した。
『地下室へ。悪魔召喚の儀式の準備は整った。純潔乙女の血を贄に悪魔を呼び寄せるのだ』
ローブの男は言葉を残しでていく。彼のあとを追うのが順路なのだが、彼がいなくなったことで張り詰めた筋肉が弛緩した。
明里は驚いた様子を隠すことなくカメラを裕貴たちに向けた。
「いやーー、ビックリしましたね。お二人もさっき驚いたと言ってましたが……?」
見栄を張るようなことじゃないし、裕貴は素直に「驚いた」と伝える。その様子をしっかりとカメラに納めた明里は順路へ向かう。
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