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裕貴たちは次の部屋に駆け込んだ。
「やべー! 悪魔に襲われるぅ!」
浩一は楽しそうに笑っているし、裕貴もニヤけて後ろを振り返っている。
まだまだ悪魔は追いかけてくる。ADはハンディカメラの手ブレを気にしながら逃げているし、明里は明里で、後ろ向きに走りながらしっかりと悪魔をレンズに納めている。
この状況で1番必死なのは悪魔だろう。接触禁止のため一定の距離を保ちつつ刺叉で恐怖心を煽らなくてはいけない。それ以上に客が転んで怪我をしないよう細心の注意が必要だ。通気性の悪そうなマスクの下では冷や汗で一杯だろう。
そのあとは逃げた先にエクソシストがいて彼に助けを求める。すると、悪魔とエクソシストの戦いが始まり最後には悪魔が再度封印されて終わった。
お化け屋敷を出た裕貴は青空を見上げる。入る前より幾分か雲が増えたように思う。
「いかがでしたか? 大和田定信さんのお化け屋敷」
明里から感想を求められた。
「セットの造形とな細かくて、それにリアルで迫力ありましたし……スゴかったです! なっ?」
裕貴は浩一の横顔を見る。浩一も「思っていた以上に楽しめました!」と答えた。
明里たちは2人の感想を手に入れたことで一通りの撮影を終えた。大型機材を持って待機していた人と合流すると裕貴たちに挨拶をして去って行った。
浩一は名残惜しそうにその姿を見送る。
「ひょっとして、水端明里って……」
裕貴の問いかけに浩一は驚いた顔をした。
「よく分かったな。俺の実の姉だ」
予想通り2人は姉弟だった。
「隠すつもりは無かったんだけどな。テレビ関係者の家族がいるって知られると『○○さんのサイン、貰ってくるようお姉さんに頼んでくれ』っとか言われて面倒なんだ」
「想像はつくよ」
そう言った浩一の視線は姉の背中をずっと追っていた。浩一が明里のことを1人の女性として愛しているのかは結局聞くことができなかった。
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