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鳥居を潜り抜けると世界は一変する。地味な街の一画だけが華やかな都へ変わっていた。大きな音の祭囃子。腹の底に響く和太鼓のリズム。活気の良い屋台店主の声。
空にはたくさんの提灯が浮いている。陽が高いので提灯の火はまだ目立たないがそれも時間の問題。間もなく会場を温かく照らし出すだろう。
「お祭り……いつ来てもワクワクするよね」
麻弥はソワソワした様子で左右の屋台の列を見た。綿あめ、たこ焼きに焼きそば。屋台の定番だ。
「分かる。スーパーで買った方が安いのについ買ってしまうよね! 何か食べる?」
「そうだねー。最初はりんご飴かな」
りんご飴の屋台は綿あめの屋台の隣にあった。2人で屋台の前に立つと店主が「いらっしゃい!」と威勢のいい声を出した。
「2つ下さい」
裕貴は声だけじゃなく指も2本立てて注文した。裕声が賑わいに負けても注文が分かるようにだ。
「おー! おー! ボウズ。青春だなあ」
店主は裕貴と麻弥の繋がった手を見てニヤリと笑う。なんとも照れくさい。麻弥も同じように照れている。
お金を払うときだけ離した手を繋ぎ直すとりんご飴を食べる。みずみずしくて、甘い。
「私たち……カップルに見えた、のかな?」
麻弥の息からほんのりと林檎の香りが漂う。
「たぶん……。嫌だったら手を放そうか?」
「嫌じゃないよ。全然、嫌なんかじゃないし……。むしろ、ほんとーに下澤くんと…………」
麻弥もりんご飴に口をした。恥ずかしそうな頬は紅くなり、りんご飴が3つに増えたようだ。
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