8月14日(下澤裕貴)

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 鳥居を潜り抜けると世界は一変する。地味な街の一画だけが華やかな都へ変わっていた。大きな音の祭囃子。腹の底に響く和太鼓のリズム。活気の良い屋台店主の声。  空にはたくさんの提灯が浮いている。陽が高いので提灯の火はまだ目立たないがそれも時間の問題。間もなく会場を温かく照らし出すだろう。 「お祭り……いつ来てもワクワクするよね」  麻弥はソワソワした様子で左右の屋台の列を見た。綿あめ、たこ焼きに焼きそば。屋台の定番だ。 「分かる。スーパーで買った方が安いのについ買ってしまうよね! 何か食べる?」 「そうだねー。最初はりんご飴かな」    りんご飴の屋台は綿あめの屋台の隣にあった。2人で屋台の前に立つと店主が「いらっしゃい!」と威勢のいい声を出した。 「2つ下さい」  裕貴は声だけじゃなく指も2本立てて注文した。裕声が賑わいに負けても注文が分かるようにだ。 「おー! おー! ボウズ。青春だなあ」  店主は裕貴と麻弥の繋がった手を見てニヤリと笑う。なんとも照れくさい。麻弥も同じように照れている。  お金を払うときだけ離した手を繋ぎ直すとりんご飴を食べる。みずみずしくて、甘い。 「私たち……カップルに見えた、のかな?」  麻弥の息からほんのりと林檎の香りが漂う。 「たぶん……。嫌だったら手を放そうか?」 「嫌じゃないよ。全然、嫌なんかじゃないし……。むしろ、ほんとーに下澤くんと…………」  麻弥もりんご飴に口をした。恥ずかしそうな頬は紅くなり、りんご飴が3つに増えたようだ。
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