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りんご飴を食べながら色んな屋台を見て回る。金魚すくいでは2人で勝負をした。麻弥が一匹も掬えず、裕貴の圧勝だった。料理では巧みな包丁捌きを魅せた麻弥だったが、ポイになると金魚に翻弄されっぱなし……。何枚も破られた挙げ句、ようやく黒色のデメキンを掬い上げて満足した。
そのあとやった射的では裕貴も麻弥も惨敗。続く輪投げでは駄菓子の景品をもらい2人で食べた。
楽しい時間はまたたく間に過ぎ、花火の時間が近づく。太陽は月と交代している。祭り会場は提灯の優しい光に包まれているので明るいが、会場の外は街灯がまばらに輝いている程度だ。
「そ、そういえばさ……沙弥さんから花火の穴場を聞いたんだけど?」
「橋の下だよね? 実は、その私も聞いてる……」
裕貴と麻弥を交際させようと計略を張り巡らせていた沙弥の顔を思い出して2人は笑いあった。
「じゃあ、行こう? 花火が始まる前にさ」
「うん!」
祭り会場は花火を見るため移動を始めた客で慌ただしくなっている。神社から花火を見るのに最適なスポットは階段を登った先の境内。遮蔽物が無く大パノラマで花火を楽しめる。そのぶん見物人も多い。
裕貴たちの目的の場所は祭り会場の外。境内とは逆方向になるのだが、少しでもいい場所を取ろうとする人たちの波が押し寄せてきた。
通勤ラッシュ時のときのような人の波。裕貴たちを飲み込んで境内への階段に押し寄せる。
「麻弥さん!」
この手が引き離されないように、しっかりと握る。けど麻弥の指は細くてすり抜けていきそうだ。すると、その一抹の不安を潰すかのように、強く握り返された。
「ちゃんと握ってるから……。しっかりついて行くから引っ張って」
たかだか人の行列で大袈裟と思われるかもしれないが、麻弥から頼られた。その事実がとても嬉しくて……。
「手、絶対離さないで!」
裕貴は麻弥の手を引く。人混みをかき分けて2人だけで別の場所を目指す。
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