8月14日(下澤裕貴)

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 袋の中では4匹の金魚が静かに泳いでいる。2人の邪魔をしないように、或いは2人に無関心なように……。  近所の人はもちろんのこと手持ちの金魚すら裕貴たちを見ていない。誰にも見られていないなかで麻弥は言葉を紡ぐ。 「私もね、今日の花火は下澤くんと2人で見るつもりだった。沙弥がお勧めしてくれた場所で、素敵な思い出にするつもりだった……」  麻弥は照れているような、それでいて苦笑いしてるような表情だ。 「それが今日のお祭りの最高の結末、正解の選択肢だと今の今までそう思っていた」 「それは、僕だって……! 今日のこの時をずっと楽しみにしていたから」  2人だけで、夜空の大輪を見てロマンチックなムードになって麻弥に告白する……。結果はおいておくとして、それが今日の裕貴の目的だった。 「でも、違った……そうじゃなかった」  自身の言葉を否定して麻弥が微笑む。 「今、私、最高に幸せだよ!」  花火は半分しか見えないし、下駄も壊れてしまった。理想とはかけ離れた状況でも麻弥は言う。 「ああしたい。こうしたいってお祭りが始まる前の理想なんてどうでもいいよ。下澤くんと2人でお祭りを楽しめた、それだけで充分。それだけで最高のお祭りだったって言えるから。このハプニングも含めて、ね!」  麻弥の言うとおりかもしれない。事前の計画通りにならなかったことを嘆いたが、大切なのはそこじゃない。花火を絶好の場所で観るのが目的じゃなく、麻弥と2人で観ることが重要だったんだ。そんな当たり前のことを見失いかけていた。 「そうだ。麻弥さんの言うとおり、一緒に祭りに来れたし、花火だって一緒に観れている……!」  ムードの欠片もない住宅街でも、花火が半分欠けていても、麻弥と一緒にいられただけで贅沢な時を過ごせた。  それに想いの丈をぶつけるための感情も相手もいる。告白するための条件は満たしている。 「麻弥さん!」 「はい」  裕貴の声で麻弥と見つめ合う。大きな彼女の瞳に裕貴は吸い込まれそうになる。花火よりも凄く綺麗だ。
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