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裕貴が言葉を飲み込むと麻弥も指を引っ込めた。
「私には双子の妹がいるの」
裕貴は沙弥とも中学の同級生だったし、高校生になってからも3人で遊んでいる。何故、いま、彼女の名前を持ち出したのか……?
「家族想いのとても優しい自慢の妹なんだけど、双子だから私と凄く似ているんだ……それこそお父さんやお母さんも間違えるくらいに」
「まぁ……確かに似てはいるけど」
裕貴は麻弥の顔をしっかりと見た。沙弥と瓜二つだ。でも、あくまで似ているだけだ。
「沙弥とそっくりなのが嫌ってわけじゃない…………でも、こうも思うんだ“誰も私のこと見ていないんじゃないか? 私のことを天川麻弥として見ていないんじゃないか”って」
麻弥と沙弥は鏡に写したようにそっくりだ。見分けるのは至難で、それこそ今までに友達や先生、近所の人たちから数えきれないくらい間違えられてきたはずだ。それが10年以上も続いたんだ。麻弥が不安を抱くのは当たり前のことかもしれない。
だからこそ裕貴は麻弥から瞳を逸らさずに否定する。
「違う! 沙弥さんと間違える人は沢山いるかもしれないけど、違う! みんな麻弥さんをちゃんと見ているから」
「うん。きっと私の被害妄想なんだと思う。でもね、それでも麻弥って呼ばれたい。沙弥じゃなくって麻弥って呼ばれたいの……。どんな時だって、沙弥と並んでいる時でも麻弥って呼ばれたい」
麻弥は願いを裕貴に伝えると、背伸びをした。吐息がかかるほど2人の顔が近づく。
「だからね、今までも……これから先も。私が死ぬまでも、死んだあとも私のことを麻弥って呼び続けてくれる下澤くんが好き! 私のことをちゃんと見ていてくれる貴方が大好き!」
その瞬間、世界が静止した。裕貴の中で何度も何度も麻弥の言葉が繰り返される。
「嬉しいけど、ちょっとだけ情けないな。僕が告白しようとしてたのに先に言われて……不甲斐ない」
「それは……しょうがないよ? 私が下澤くんを好きな気持ちは下澤くんが思っているよりずぅーっと強くて抑えられないほど荒々しいんだから、さ」
そして2人は唇を重ねた。麻弥から重ねに行ったように見えるし、裕貴が汚名返上とばかりに漢らしく奪いに行ったようにも見えた。
「どう? これで麻弥さんをどれだけ愛してるかって伝わった?」
離した唇にはまだ、麻弥のマシュマロみたいな唇の感触が残っている。
「下澤くんの気持ちって……とっても熱いけどりんご飴みたいに甘いね」
2人は笑い合うともう一度キスをした。お互いの存在を確かめ合うように、お互いの気持ちを伝え合うようにーーーー。
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