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麻弥は大きなバスタオルをベールのように頭に乗せてリビングにきた。エアコンが効いていて涼しい。
「……のぼせた……」
「……お風呂で? それとも下澤くんとの熱い夜に?」
触っていたスマホをソファーに置くと沙弥は下衆い笑いかたをした。
「私と同じ顔でその下品な笑い方をしないでくれるかな?」
水道水をがぶ飲みする麻弥に諭され沙弥は首を竦めた。
「全く冗談も通じないの? まあ、いいけど……。それでどうだったの? お祭り」
「うーん……まぁ色々あったよ。金魚すくいをしたし、射的もしたし、輪投げもしたし」
「まったくー。私が聞きたいのはそういうことじゃないのは分かっているでしょ?」
沙弥が背もたれに上半身を乗せ身を乗り出すように聞く。次週のアニメが楽しみで待ち切れない子どもみたいだ。
「花火はあまり見れなかったよ」
「橋の下……ダメだった?」
「そうじゃなくて、橋に行くのが間に合わなかった。屋台に夢中になりすぎたのと、私が下駄を壊して歩けなくなったから」
水を飲んだコップを洗い終えると麻弥はソファーの方へきた。湯あたりした麻弥の顔は真っ赤で、エアコンの風がよく当たる場所に横たわり天井を見上げる。
沙弥は気持ち良さそうに涼む麻弥の横顔をジッと見つめる。満足そうというか……凄く幸せそうだ。しかし、沙弥はどうにも納得がいかない。
「で、本当は?」
「さっき言ったじゃん。下駄が壊れたのと屋台に夢中になり過ぎたって」
「はいはい。私にそーゆー言い訳が通用するわけないでしょ」
麻弥の性格なら今日のお祭りデートの予習をしていたはず。未来を視て問題が起きないように……。裕貴とお祭りを楽しめるように魔法をフル活用したことだろう。特に今日のお祭りは楽しみにしていたし、そんな麻弥が失態あると分かっていて回避しないわけがない。裕貴が関わること尚更、より良い未来を選択するのが天川麻弥という双子の姉だ。
疑いの目とか向けられた麻弥は天井を見上げたまま「ふぅ暑い暑い」と黙秘を決め込む。その行為自体が隠している事があるのだと自白しているようなものだが……。
「麻弥が言いたくないなら下澤くんに聞いてみるけど……」
沙弥が裕貴の名前を出した瞬間麻弥がピクリと反応した。
「たとえば……そう、麻弥のキスの味とか?」
沙弥が言うと即座に麻弥が飛び起きた。
「な、何で知ってるの!? もしかして後をつけてたとか……?」
飛び起きた拍子に生乾きの髪が顔の左側を無造作に隠している。髪の毛がカーテンのように左目を隠していても目を見開いているのが分かるくらい麻弥は驚いていた。
「生まれてからずっと一緒にいるんだから、それくらいお見通し。で、どうだった? 下澤くんとのファーストキス」
どんどんどんどんと麻弥の顔が赤くなっていく。面白いくらいわかりやすい反応に沙弥は口を覆い笑いを堪える。
「もぉ、やだ! 沙弥のばか!」
麻弥は手近なクッションを沙弥に投げつける。怒っているような口調でも乙女チックな表情になっているのは言うまでもない。
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