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2人で歩いていると天川家が見えてきた。
「今日も送ってくれてありがとう!」
「良いって! 別々の学校だから帰りくらいしか、ゆっくり話しもできないし」
夏休みがあけてから駅から麻弥の家まで一緒に帰っているのは、9月中に麻弥が殺されるからだ。沙弥の企てたプランは順調でどうにか交際まで至ったので、これで麻弥は死を回避しようとするはずなのだが…………念には念を入れている。
少しでも一緒にいたいという下心もモチロンあるのだがーー。
2人で「バイバイ!」っと手を振りあう。少しの寂しさを感じるが、“明日も一緒に帰る”と考えを切り替えればそれも和らぐ。
麻弥が玄関の中に消えたのを確認すると踵を返した。スマホを取り出すと沙弥の連絡先を開き無事に麻弥を送り届けたことを伝えておく。直ぐに沙弥からの返信が返ってきたが、一瞬、その内容が理解できなかった。
「えっ? 帰って、いない……?」
沙弥からの返信は「今、家にいるけど、帰ってきていないよ」というものだった。
振り返り、麻弥の家の前まで走って戻る。しかし、そこに麻弥の姿はない……。
ちゃんと麻弥が玄関の中へ入っていくのを見届けた。だから、きっと沙弥がからかっているんだ……とそう思いながら重い足を動かす。だが、玄関の扉の前に立ったとき、青ざめた沙弥が出てきて沙弥のイタズラじゃないと悟った。
「下澤くん!」
「ほんの……ほんの少し前までここにいたんだ! 家の中に入るのだって見届けた!」
「分かってるから……! 落ち着いて!」
沙弥は両手をめいいっぱい裕貴の前で動かす。沙弥の腕が何度も上下するを見て気が動転していた裕貴も落ち着きを取り戻し始めた。
「なんで? 沙弥さんの計画通りに麻弥さんと交際できたのに……。なんで居なくなったんだよ」
この半年間、こうならないように努力してきたはずなのに……。
「参ったな……。麻弥なら下澤くんと生きる選択肢を選ぶと思ったのに。どうして……?」
「手分けして探そ……いや、沙弥さん。魔法を……! 過去干渉で時間を戻してほしい」
まだ麻弥が姿を消してから幾ばくもたっていない。常人相手なら追いつける可能性は十分あるが、探すのは麻弥だ。未来予知で逃げられてしまう。
「うん! そのかわり麻弥が逃げないようにしっかりと捕まえておいてよ!」
裕貴は「任せて!」と即答する。それを合図に沙弥の魔法が2人の記憶を数分前に送り出す。
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