麻弥の死

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「私の魔法では麻弥の過去に干渉出来ないの。代わりに麻弥も私の未来を見ることが出来ないけど」  お互いがお互いの魔法の影響を受けない。その成約を前提に麻弥を助ける方法ーー。 「麻弥さんが自分の死を拒否しないと根本的な解決にならないのか……」  沙弥が過去へ戻り何度やり直しても、麻弥は未来を見ている。自分が殺される未来をーー。 「目的地が見えているなら其処へ辿り着くルートも見えているということ。その全てを潰すのは私一人じゃあ絶対に出来ない」  未来予知と過去干渉が戦えば未来予知に軍配が上がるようだ。いたちごっこを続けるか麻弥の命を諦めるかーー。どちらにせよ麻弥の死は揺るがない。 「だからこそ調和を乱す存在が必要なの」  沙弥が裕貴の方を見た。裕貴は自分のことを言われてるのだと察する。   「調和を乱、す?」 「私が“麻弥が男と会ってる姿”を見たのは麻弥にとって予測外だったんだと思う」  麻弥にとって唯一予測できないのが沙弥の行動だ。麻弥が自分の死を求めるのなら、沙弥に悟られる可能性の低い未来を選んでいくしかない。 「手がかりを残すようなヘマ、普段の麻弥なら絶対にしない。けれど現に私に見られた。それが麻弥の未来予知を超える可能性を示したんだ」 「そうか! 麻弥さんは沙弥さんの未来を予知できない。言い換えれば沙弥さんが僕を過去に戻したことも知らない訳だ」  沙弥一人では麻弥の未来予知を超えることが出来ない。けれど、裕貴を協力者に加えたことで可能性が生まれた。 「未来は変えられる。麻弥さんが死なない未来を作るために僕がしないといけないことーー」     裕貴は気持ちが昂っているのを感じた。もう絶対にないと思っていた麻弥が死んでいない未来。それが手の届くところにある。 ーー未来が変わり始めたんだ! 「そう。何度も何度も繰り返して分かったのは『麻弥は刃物』で殺されること。『日にちは必ず今年の9月』のどこか。この2つだけは絶対に変わらなかった。だから、8月が終わる前までに下澤くんがやらないといけないこと。それは…………麻弥を恋人にすること!」 「へっ?」  予想の斜め上をいく沙弥の回答。裕貴から漏れた素っ頓狂な声は店のBGMにかき消された。  
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