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麻弥は人混みに紛れてしまっている。人と人との間をすり抜け、角を曲がった先で人と衝突したりした。だがその甲斐あって麻弥を見つけることができた。彼女がいるのは2番ホーム、電車待ち列の最後尾だ。
「麻弥さん!」
裕貴は麻弥の名前を呼んだ。しかし、裕貴がいる場所は線路の上を渡る橋の中央。身を乗り出すように叫んでも声は届かない。オマケに麻弥がいる2番ホームに電車が近づいてきている。乗られる前に止めないと……!
「マズい! また……。麻弥さーん! 麻弥さーん!」
裕貴は呼び続けたが気づく気配はない。このままではダメだ。今から走れば同じ電車に乗れるかもしれない。面白可笑しく裕貴を見物していた群衆に飛び込む。
“どいてください! 道を開けて下さい!”
そうお願いしながら進んでいると聞き慣れた音が鳴る。これはスマホの着信音だ。一瞬を争うこの時に電話に出ている余裕はない。無視してもう1度2番ホームに目を向けた。電車はさっきより近づいている。そして、その電車の到着を待つ麻弥はと言えば、耳に手を当てている。
“もしかして………”
そう思って無視すると決めた電話を取り出す。案の定、麻弥からの電話だ。
「もしもし!」
『下澤くん! 公共の場で大声出したら迷惑だよ?』
麻弥から叱責の声が飛んできて、裕貴は肩を竦めた。
「聞こえてたなら返事してくれれば良いのに……」
『言ったでしょ? 大声を出したら迷惑だって……』
電話から聞こえてくる麻弥の声はいつもと変わらない。橋の上から様子を見ると麻弥もコッチをみて手を控えめに振っていた。
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