9月8日6回目(下澤裕貴)

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 裕貴はどう麻弥を引き止めようかと頭を捻らせる。言葉を探していると麻弥の方から驚くべきことを言われる。 『ねぇ? 今、何回目?』  たった一言……。それでも心臓を掴まれたような気分だ。 『そっか……。ヤッパリ下澤くんと沙弥はグルだったんだ』  麻弥は沈黙を肯定と捉えたようだ。 「はははっ! グルって、そんな共犯みたいな言い方……」 『良いよ良いよ、隠さなくて! 下澤くん、私の未来予知を越えたことあったし……そうじゃないかって思ってたから』  これ以上隠すのは無理だ。麻弥は確信しているようだし、何より未来予知のことをアッサリと白状した。腹を割って話そうということだろう。 「ごめん、騙す気はなくて……。ただ、麻弥さんの事を好きなのを疑われたくなくて」  電話の向こう側で麻弥の声がしなくなった。橋の上から見下ろす麻弥は狼狽えた様子で見つめ返してくる。 『疑わない……ううん、疑いたくないか、な! 絶対に』  麻弥のことを信じきれていなかったのは裕貴の方かもしれない。自分の気持ちが弱いものだと気付かされるくらい麻弥の言葉は強くて真っ直ぐなものに思えた。   『それよりも! もう私のことは諦めて? そうすることが下澤くんが幸せになる方法だからさ! それじゃあねバイバイ!』  麻弥の笑顔を最後に電話が切れた。自分を追いかけさせないための、時間を稼ぐために麻弥は電話をかけてきたのだ。  電車が到着し、乗客を乗せる。もう一度動き出したとき麻弥の姿はなくなっていた。 「こんな結末で……! 幸せになんかなれるか…………」  麻弥は諦めろと言っていたが、まだ諦めるつもりはない。コッチへ向かってきている沙弥に合流し、またやり直す。  諦念の念を蹴り飛ばして走りだす。    
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