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映画館
沙弥との話しを終えた裕貴は大通りを歩いていた。正面から歩いて来るのはサラリーマンやOL、学生が多く感じるのは春休みだからか……。
前から来た複数のカップルとすれ違う。春になるとヤンキーだけじゃなくカップルも繁殖するらしい。
そんな冗談を考えてみれば気が紛れるかと思った。だが、気持ちが上向きになることなく映画館は姿を現す。
黒く角張った外観から漂ってくる不思議な緊張感。それはまるで部活の大会が行われる体育館のよう。
裕貴はここで試合を行う。
“天川麻弥の連絡先を手に入れる”
口で言えば簡単な試合。コミュニケーションに長けた人間も簡単にやってのける。しかし、裕貴のように人とのコミュニケーションが不得手な人間にとっては全国レベルの猛者を相手にしているような難度。それが異性の、それも人目を惹くルックスの持ち主が相手なら、最早プロを相手に戦うようなものだ。
「そりゃ、麻弥さんが死ぬのを拒む必要があるのは分かるけどさ……」
もう知っているのか、これから先に知るのかは不明だが、未来予知が使える麻弥は自分の死を知ることになる。それを受け入れた理由は不明だが、結果を変えるには過程を変えるのが必須事項だ。麻弥が死を拒むようにするーー言い換えれば“生きたい”と、そう思わせなくてはいけない。
そこで沙弥が考えた作戦がこれだ。
「“恋人ができれば生きたいって思う”だなんて安直だと思うけどなぁ」
愚痴が出る。けれど、情報不足の今、やれることは多くない。
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