11人が本棚に入れています
本棚に追加
9月7日 2回目夜 (天川家)
頭がふらっとした感覚に襲われた。過去干渉を使ったときの、記憶を上書きするときの反動だ。
「制服、着替えてくるから!」
記憶が更新されて沙弥は階段を登ろうとする麻弥の腕を摑んだ。
「待ちなさい、沙弥!」
「わッ! ビックリしたぁー……急に大きい声を出してどうしたの?」
麻弥は大きな瞳をパチクリとさせて驚く。
「行かせないよ……!」
“やっと、捕まえた!”
明日、9月8日に幾度となく伸ばした沙弥の手は麻弥に届かなった。裕貴と力を合わせても、麻弥は消えた。
その沙弥の無力感と後悔の深さは麻弥のセーラー服にできた深い皺から垣間見ることができる。
「えっ、いや……汗もかいてるし着替えたいんだけど?」
麻弥が困惑した表情で言う。何度も何度も9月8日を裕貴と繰り返したが麻弥を捕まえることは叶わなかった。だから7日まで回帰したが、明日になればまた麻弥は消えようとするだろう。それを阻止しなくてはいけない。困っているのは沙弥も同じだ。
「明日、学校休まない?」
学校では別々のクラスで麻弥の行動を監視し続けるのは無理がある。その点、自宅なら……。
「たまには大きいピザでもデリバリーしてさ、映画とかドラマとかでも観て……ね?」
「……サボり? 学校で何か嫌なことでもあったの?」
「ち、違うよ! いや……違うけど違わない」
麻弥が言っている“嫌なこと”は虐めとか授業についていけないとか、そういう学生生活を指している。
「な、なんならさ! 下澤くんも呼んでパーティとか……!」
とにかく麻弥を家から出さないようにしたかった。そのために咄嗟に出たのがパーティを開くという案。正直成功する気はない。それでも望みをかけてデマカセを重ねる。
“沢山の種類のケーキ”
“食べきれないくらいのファーストフード”
“食後には盛り上がるゲーム”
“ゲームに疲れたら映画を観て”
麻弥を引き止めておけるような、そんな夢のようなパーティを……。だが、その妄想も麻弥のデコピンで現実に引き戻されてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!