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沙弥の泣く声は次第に小さくなり、最後には消えた。
「落ち着いた?」
麻弥は腕の中で微かに肩を震わせる沙弥に微笑んだ。沙弥は頭を動かして肯定するものの、まだ顔をあげない。
「……ごめん、麻弥」
鼻声だが、沙弥の声は軽くなったような気がする。思いっきり泣いてつかえていたものが取れたのかもしれない。
「ううん。良いよ」
麻弥のセーラー服は涙で濡れてしまっているが、気にする素振りはない。寧ろ、普段以上に穏やかな声を心掛けて沙弥に問う。
「何があったの? お姉ちゃんに話して?」
麻弥は沙弥の頭を丁寧に撫でた。たった数分の差で姉になった麻弥だが姉としての矜持は確かに備わっている。それを伺うことができる光景だ。
「麻弥は……」
少し戸惑った様子を見せつつも沙弥は声を発した。ただ、その次の言葉は中々出てこない。言葉を選んでいるようだ。
「思ったことをそのまま言って? 私がーー?」
「下澤くんのこと、本当に好き?」
麻弥は目を丸くして驚いた。
「そう。ヤッパリ、そうなんだ……」
麻弥が驚いたのは一瞬だった。けれど直ぐに麻弥は納得した様子で呟く。
「下澤くんが未来予知とは違う行動を取るからもしかして……とは思っていたよ」
「気づいていたんだ。そうだよ、私が魔法で下澤くんを過去に戻した。でも麻弥のことを好きなのは下澤くんの意志だから。下澤くんと麻弥が両想いだからこそ、彼を選んだ」
麻弥を助けるまで話すつもりはなかった。でも、麻弥の胸を借りて思いっきり泣いて、思った……“麻弥はヤッパリお姉ちゃんなんだ”と。
妹にはない、姉としての意識や器。ちょっと頼りないときもあるけど、困った時には頼りになる優しいお姉ちゃん。姉妹同士、気兼ねする必要なんかない。素直に助けて貰えばいいという結論がでたとき、全部“打ち明ける”という選択肢が選べるようになった。
「そこは疑わないかな……下澤くんに好かれるのは嬉しいけど、下澤くんのことを好きでいられれば充分幸せだから」
麻弥の惚気を聞いて沙弥は顔を上げた。
「やっと認めたね? 下澤くんが好きだって……」
沙弥ですどんなに指摘しても頑なに認めなかった。交際したあとも麻弥の口から「下澤くんが好き」という発言は聞いたことがない。感慨深く思う。
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