9月8日7回(天川沙弥)

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9月8日7回(天川沙弥)

 沙弥は通話を切った。画面が暗くなったスマホを眺めて「ふう」とため息をつく。 「ごめんなさい、下澤くん」  通話相手だった裕貴を思い浮かべて謝罪した。今まで真摯に協力をしてくれた裕貴を騙すのは忍びない。さっきの電話でもそうだ。裕貴は麻弥の命を諦めるつもりがないのが伝わった。  だから、沙弥は作戦を変えることにした。麻弥が裕貴を愛している気持ちを、裕貴が麻弥を愛している気持ちを利用する卑怯で、そして彼を犠牲にする非情な作戦に……。 「麻弥を止められないなら、犯人を捕まえるしかないよね」  1人でループしていたときは犯人の見当はついていなかった。けど、今回の犯人の目星がついている。そして、それが誰なのかは裕貴にも伝えてあるので、裕貴も犯人の元へ向かうはずだ。  殺人を行う凶悪犯のもとに……。  部屋の扉を閉じた。階段を降りると麻弥が待っている。セーラー服をきっちりと着こなしキラキラと眩しくて、とても死を目前に控えた人間とは思えない顔をしていた。 「遅い! 遅刻するでしょ」 「走れば間に合うから。そんな怖い顔をしないで」 「ったく。もう明日からお節介をやいてあげられないんだからさ……しっかりするんだよ?」  小言を言いつつも微笑むと麻弥は玄関を開く。早朝だというのに太陽は燦々と輝いていた。眩しい世界に飛び出していった麻弥の背中に、沙弥は聞こえないように呟く。 「どうする、麻弥? このままだと下澤くんが危ない目にあうかもしれないよ……」
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