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天川沙弥と予め打ち合わせしてある。時間までゲームセンターで時間を潰してからチケット売り場へ向かう。随分と人でごった返しているが、ここで偶然を装い出会うことになっている。
「今更だけど、この作戦なら僕じゃない方が良かったんじゃないか……? イケメンとかスポーツができる奴とか格好良い奴に……」
沙弥の考えたこの作戦は“麻弥を惚れさせる”というのが過程であり、ある意味、目的でもある。その役が自分じゃあ力不足なんじゃないかと思えてきた。
落胆した裕貴の肩が叩かれる。振り返ると天川沙弥がいた。
「下澤くん! 偶然だね!」
ほんの1、2時間前にここで会うと約束したのに“偶然だね”とは白々しい。だが、その事を一切臭わせない自然な振る舞いは凄い。演技の才能もあるようだ。
裕貴も負けじと努めて自然に振る舞う。
「偶然だね! こんなところで……麻弥さんも」
裕貴が麻弥に言葉をかけると、沙弥の背中に隠れていた姉がそっと顔を覗かせる。
「こん、にちは……」
戸惑いと喜びを混ぜた表情で麻弥は言った。そのあと、亀のように首を引っ込ませた麻弥は沙弥の背中に小さな声を投げ掛ける。
「ち、ちょっと! なんで話しかけるのよ!」
「良いじゃない、別に。なんなら麻弥は話に入らなくてもよかったけど?」
「だめっ! それは絶対にダメ! 沙弥だけ下澤くんと話すなんてダメに決まってる」
焦った麻弥を見て沙弥はニヤニヤと笑った。
「…………バカ沙弥……」
ふくれっ面の麻弥は精一杯の罵倒を投げた。
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