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9月10日(天川麻弥)
車に叩きつける雨風は激しさを増す一方だ。カーラジオが9日から10日に日付が変わったことを告げると、今度は台風情報を伝える。台風は上陸したばかりで、雨も風もまだまだ続くみたいだ。
麻弥を乗せた車は竜宮城の手前で止まった。
「ここからは大和田の車に乗ってもらうから」
明里は麻弥に手錠を嵌めながらそう言った。
台風が直撃している深夜。他に走っている車はほとんどいない。脇道なら尚更だ。しばらく待機している。強風で車が揺れ、窓ガラスを見ると滝の内側にいるような気分になるほど雨が流れていた。明里を見ると頻りに周囲を警戒している。誰かに目撃されないか不安でたまらないという感じだ。
やがて明里の不安を払うかのように眩く照らされた。後ろにミニバンが停車する。
「来たみたいね」
明里はミラー越しに確認する。安心した様子でもある。
麻弥はサイドミラーを確かめた。傘をさした大和田定信が歩いているのが見えた。持っていた大きい鞄を地面に置くと大和田は助手席のドアを開く。
暴風と豪雨が襲いかかってきた。たまらず眼を閉じた麻弥。手で雨よけを作り目を開く。細めた視界には大和田定信の薄ら笑いが映った。
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