9月10日(天川麻弥)

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 大和田定信は麻弥の手錠の鎖を掴んで引っ張った。 「いたい! 乱暴にしないで」  車外に引きずり出され瞬く間にずぶ濡れになってしまう。当然のように大和田定信が気にするはずもなく、麻弥は黙って成り行きを見守る。  持って来ていた鞄を明里に渡す。防水加工がしっかり機能しているのは、中に入っていた札束がカラカラに乾いている時点で一目瞭然。  鞄一杯に詰められた札束。麻弥はこの金額が自分の売値なのかと考えるのと同時に、大和田の横顔を伺う。 「これで取引完了、でいいな?」  両手一杯に札束を掴み、明里が頷く。 「ええ。モチロン。貴方が厳選した女性のなかでも一級品。手に入れるのに苦労したのだから感謝してよ?」  明里の言葉に大和田は記憶を蘇らせた。  4月17日、水端明里から取材を受けた。その最中、偶然見つけた若く美しい女……。他にも何人か目ぼしい女を見つけて唾をつけていたが、その中でもトップクラス。一目見た瞬間、ピンッ! ときた。しかも好都合なことに双子。チャンスが2度ある。 「ああ。感謝しているさ」  大和田の声は浮かれていた。  大和田が調査会社に調べさせていたのは18人。麻弥と沙弥を除外した残りの人が殺される可能性は等しく同じだった。麻弥の決断の副産物ではあるが、麻弥の決断で彼女たちの運命も変わった。それは麻弥しか知らない「もしも」の未来。    明里が車を発進させた。大和田も麻弥を引っ張って車に戻る。 「ちょっと乱暴にしないでって言ったでしょ!」 「うるさい。つべこべ言わず乗れ!」  麻弥は大和田定信に押し込まれるように乗車した。ダンボールが山のように詰まれた後部座席で麻弥は濡れた顔を手で拭く。車が動き出すと大和田の鼻歌が車内に木霊す。随分とご機嫌だ。明里に裏切られるとも知らず、呑気なものだ。  そして大和田の車は竜宮城へ到着する。
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