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台車が止まるとダンボールごと横倒しにされた。大量の生地がクッションの役割を果たしてくれたから痛い思いをせずにすみ、スムーズに布の山から這い出る。
その先には大和田がいて、麻弥の口からガムテープを剥がした。声を取り戻した麻弥はキョロキョロと部屋の中を見る。
「ここは竜宮城で制作したお化け屋敷のバックヤード」
演者やスタッフの休憩スペース、展示物が万一破損した場合の補修道具や材料の保管庫。
「ふーん……」
反応が薄いのはお化け屋敷自体すきじゃないからだ。
大和田が足元に移動する。右足首が握られ靴と靴下を脱がされる。続けて左足も素足にされ、靴と靴下は空っぽの弁当箱と同じ箱に投入された。
麻弥の手錠が掴まれる。鎖が引っ張られ立つように命令される。
「……随分大人しいな。本当に死にたがりなんだな」
明里が大和田定信に何て説明したのか想像できてしまう。
「お互い好都合でしょ?」
散歩される犬の気分を味わいながらバックヤードを出た。大股で大和田が歩く。待ち切れないようだ。
麻弥は腕を引っ張られながら着いていく。
殺人鬼と一緒にお化け屋敷を歩くなんてシュールをとことん煮詰めたようなシュールさ。
そんなことを考えていると扉が見えてきた。スタッフ専用の出入口のためシンプルな扉。それを開くと中に余計な光が入らぬようにするための暗幕がぶら下がっていた。
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