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「下澤くんは何の映画を観るの?」
沙弥が裕貴に聞くがこれも二人の間で事前に相談済み。
「そうだなー……『殺戮の日本人形』を観るつもりだけど?」
「えっ……!?」
信じられないものを見るような目を麻弥は裕貴に向けた。偶然会っただけでなく、観る映画も同じだと驚いているのだろうか?
「うっそー! 偶然! 私たちも同じものを見に来たんだよ!」
沙弥はチケットをヒラヒラとさせる。その後ろで麻弥の瞳が沙弥と裕貴の間をウロウロと往復している。
「下澤くんもチケットを買ってきなよ?」
「ああ、うん」
裕貴は一旦二人から離れてチケット売り場へ並んだ。この映画はあまり有名じゃないので、座席は選び放題だ。
「沙弥さんは、確か……えーっと………Dー13だったな」
さっき沙弥がチケットを見せたのは裕貴に座席を知らせるためだ。しかし、一瞬見ただけなので100%の確証はない。
「隣の席ってのは流石になぁー。1列後ろにしておくか……」
今日の目的は麻弥の連絡先を手に入れること。そのためにまずは、交流をして仲を深める。なので、距離の離れた座席を指定するのではなく、会話が出来る席を買った。
チケットの購入を終えた裕貴に天川姉妹が合流する。
「席、どこにした?」
沙弥は裕貴のチケットを覗き込んだ。
「Eー13! 麻弥の隣じゃん!」
「えっ!?」
「えっ!?」
裕貴と麻弥の声が揃った。2人は視線を交わらせたあと気まずそうに視線を泳がせる。
「飲み物を買って中に入ろーか?」
沙弥は麻弥と裕貴を促して売店へ向かう。その頬には涙の痕跡があった。
「全く……。後ろの席なんて逃げは許さないから」
沙弥は裕貴と麻弥に聞こえないように呟いた。
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