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結局大和田の家の前をブラブラとしているうちに日が暮れた。麻弥が姿を消したのが通学時間だったから10時間以上経過してしまったことになる。
裕貴は大和田定信の家を見る。窓には明かりがついたのは半刻ほど前。外は薄暮時だったときだ。
「……これって?」
まだ可能性の段階だ。でもこれは……。
裕貴は沙弥の電話を鳴らす。すると、離れたところで着信音が鳴り近づいてきた。着信音の発生元は見知った顔。
「沙弥さん」
「良かった、いてくれて……。浅慮なことをしていなくて安心したよ」
裕貴は家に忍び込み証拠を押さえることを考えていたが、沙弥の言葉のニュアンスは違うように思えた。もっと過激で、暴力的な対応。
「それで麻弥さんを助けることができたとしても、意味ないから」
麻弥には生きていてほしい。でも、沙弥が想像していたことをしてしまっては麻弥の顔を真っ直ぐ見られなくなりそうだ。
「それもそうだね……」
納得したという感じよりはホッと安心した様子で沙弥が笑う。もしかしたら沙弥は、その暴力的な行為を望んでいたのかもしれない。
この時間、ここに現れたのも裕貴の無事の確認……場合によっては時間を回帰させるためだった?
その予想が正しかったことは沙弥が頭を下げたことで証明される。
「ごめんなさい、下澤くん。下澤くんが大和田定信を何とかしようと危ないことをしてくれれば麻弥が黙っていないと思って……」
「麻弥さんを諦めるって言ったのは?」
「モチロン嘘。下澤くんなら麻弥を諦めないって信じてたから」
麻弥を諦める気がないと沙弥がちゃんと応えてくれた。それを聞けて一安心だが、気になる点も……。
「別に嘘を言う必要なかったんじゃない? 最初から『大和田定信を止めろ!』とか言ってくれれば……」
「それじゃあダメだよ。麻弥に未来予知で“下澤くんが殺人犯の大和田に危害を加えられそうになる”って未来を視てもらわないと意味なかったから」
「あー……なるほど」
沙弥は麻弥の未来予知の対象外。沙弥が裕貴に命令してもそれを麻弥は予知できない。裕貴が考えて行動する必要があった。
「結局失敗だったけど……。ヤッパ私だけじゃ麻弥には敵わないや」
沙弥は頬をポリポリと掻きながら笑う。切迫した状況で敗北を喫したというのに、沙弥は嬉しそうに見える。
きっと……麻弥のことが大好きな沙弥だから、麻弥の凄さを感じて誇らしく思っているのだろう。
でも…………。
「案外そうじゃないかもよ」
「えっ?」
「無意味じゃなかったかもしれないってこと……アレを見てくれ」
一見するとなんの変哲もない洋館。怪しいところはない。沙弥は首をかしげた。
「大和田定信の家? それがどうかしたの?」
次いで裕貴は自分のスマホを沙弥に見せた。正確にはスマホの通話履歴で今朝、麻弥と電話したことがキッチリと残されていた。
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