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「朝、麻弥さんと話してからここに向かって走って来たんだ。一応、麻弥さんと遭遇するかもって脇道なんかもみてきたけど、寄り道せずに真っ直ぐ」
裕貴とは別の道を通ったかもしれない。バスやタクシーとか別の交通手段を使った可能性も否定できず、裕貴よりも先にここへ到着していたことだって考えられる。
でも……それでも確かなことはある。
裕貴が着いてから大和田定信は一切の外出はしていない。麻弥を含めた来客もゼロだ。
「つまり僕が来てから大和田定信は誰とも会っていない。もし、麻弥さんが僕より先にここに来ていないなら」
「大和田定信が麻弥のところへ行く。若しくは麻弥がここに来るってことだね?」
沙弥の推測通り大和田が犯人なら麻弥と必ず接触する。
「うーん……できれば麻弥がいるかいないかだけでも確かめたいよね」
沙弥の意見はもっともだ。もし麻弥が既に接触しているならここに留まっても時間の無駄。危険を冒しても奪回しにいきたいところなのだが……。
「ううん……。そんな必要ないっか!」
沙弥は両手を空に向けて伸びをした。すると彼女の目に悩みの色はなくスッキリとした顔になっている。
「下澤くん。ここに麻弥はいない。まだ麻弥と大和田定信は接触してないよ」
「理由は?」
「だって麻弥は下澤くんのことが大好きだから。下澤くんを危ない目に合わせるようなことはしないよ。私と違ってね」
本人から言われたわけじゃないのに胸の奥がムズムズと痒くなる。照れてしまうが嬉しくもあって、だからそのぶん許せない。
「僕も麻弥さんが好き。大好き。だから今度こそ助けてお仕置きしてやろう。こんなにも心配ばかりかける迷惑っ娘に」
「ふふっ。そうだね。苦労したぶんいっぱいいっぱいお仕置きしてあげなくちゃ! スマホ貸して?」
裕貴は沙弥にスマホを渡した。沙弥は自分のスマホも持ち両手で2台を同時に操作する。裕貴は何をしているのかと肩口から覗きこんだ。
「GPS?」
「そっ。紛失時に使うのが本当なんだけど……。っと、これで私のスマホの位置を下澤くんスマホで調べられるようになった」
「それをどうするの?」
「麻弥が来るのか大和田が麻弥を連れてくるのか分からないでしょ? もし大和田が麻弥を誘拐してくるなら移動手段は、車!」
沙弥が勝ち誇った顔で言う。ここまで聞けば裕貴も同じ気持ちだ。麻弥がこのまま来なければ、大和田が動き出す。そして大和田の向かった先には麻弥がいる。2人が会う場所さえ分かれば過去干渉で先回りすることだってできてしまう。
麻弥を死なせないためにやり直した半年。沙弥に至っては数え切れないくらい繰り返した……。
それも、もう終わり。そんな予感をヒシヒシと感じていた。
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